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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百八十六話 魔法が解ける時間、次は二十歳で

「……ん、ぅ……」


肩に乗った重みが小さく動いた。車が減速し、砂利を踏む音が聞こえてくる。


「優愛、着いたぞ」


僕が小声で呼びかけると、優愛はゆっくりと目を開け、少しとろんとした瞳で僕を見上げた。


「……あ、溢喜。……寝ちゃってた?」

「爆睡だったよ。よだれ垂らさなくてよかったな」

「も、もう! 垂らしてないもん!」


優愛が慌てて口元を拭う仕草をする。その反応が可愛くて、僕はつい笑ってしまった。

「嘘だよ。綺麗な寝顔だった」

「……うぅ、からかわないでよぉ」


車が完全に停止し、運転手さんがドアを開けてくれる。

外はすっかり日が落ち、冷たい夜風が吹き抜けていた。まだ十八時前だが、冬の日は短い。


「ありがとうございました。お気をつけて」

運転手さんにお礼を言い、僕たちは車を降りた。久しぶりの地面の感触。そして、慣れ親しんだ家の前の空気。


「……はあ、現実に戻ってきたって感じ」

優愛が大きく背伸びをしようとして、帯の苦しさを思い出して止める。

「今日は疲れただろ。早く着替えて、楽になれよ」

「うん。……でも、ちょっともったいないな」


優愛が自分の袖を見つめ、少し寂しそうに呟く。

「この振袖、脱ぎたくないかも。溢喜に『可愛い』って言ってもらえたし」

「……また着る機会はあるだろ。大学の卒業式とか、成人式とかな」

「あ、高校の卒業式は制服だもんね」

「そうそう。だから、次にこの姿が見られるのは……二十歳か」

「うん。その時も、一番に溢喜に見せるね」


優愛はニッコリと笑うと、「じゃあね、また後で!」と手を振って、自分の家へと入っていった。

赤い振袖がドアの向こうに消える。

まるでシンデレラの魔法が解ける瞬間を見たような、不思議な余韻が残った。


家に入ると、リビングからテレビの音が聞こえてきた。

「ただいまー」

「おかえり溢喜。どうだった? 楽しかった?」

コタツでくつろいでいた母さんが、身を乗り出して聞いてくる。


「うん、まあね。おじいちゃんたちも元気だったよ」

「よかったわねぇ。……で、夕飯どうする? お節の残りあるけど」

「いや、いい。昼に高級食材を死ぬほど食わされたから、まだ腹いっぱいだ」

「あらそう。じゃあ、お風呂沸いてるから入っちゃいなさい」


僕はスーツを脱いで部屋着に着替え、ネクタイを緩めた瞬間の開放感を味わった。

まだ十九時にもなっていない。

元旦の夜はこれからだ。

自室のベッドに腰掛け、スマホを取り出す。


「……そうだ、写真」


写真フォルダを開く。

そこには、雪化粧の日本庭園をバックに、少しはにかんで笑う僕と、満面の笑みの優愛が写っていた。

深紅の振袖と、白銀の世界。そして、二人の距離の近さ。


「……いい写真だな」


自画自賛したくなるほどのベストショットだ。

これを優愛に送ろうとして、ふと指が止まった。

画面の中の優愛があまりにも可愛すぎて、誰かに見せるのが惜しいような、独り占めしたいような、そんな独占欲が湧いてくる。


『溢喜! 今日の写真、送ってー!』

『おじいちゃんたちとの集合写真もね!』


タイミングよく優愛から催促のメッセージが届く。

僕は苦笑いしながら、厳選した数枚(もちろんツーショット含む)を送信した。


『わぁ! 綺麗! お庭の雪、すごくいいね!』

『私の待ち受け、これにする!』


即レスで返ってきたスタンプは、ハートマークが乱れ飛ぶウサギのキャラクター。

僕も設定画面を開き、こっそりとホーム画面を今日のツーショットに変更した。

スマホを開くたびに、この幸せな瞬間を思い出せるように。


「さて……腹ごなしに風呂でも入るか」


お年玉袋の厚みと、写真フォルダの宝物。

そして何より、「将来」を信じてくれる家族たちの言葉。

それら全てを糧にして、明日からもまた、優愛の隣にふさわしい男になれるよう頑張ろう。

僕は新しい待ち受け画面をもう一度眺めてから、タオルを持って部屋を出た。

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