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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百八十三話 五十畳の宴と、分厚すぎるポチ袋

通されたのは、五十畳はあるんじゃないかという大広間だった。


正面には立派な床の間があり、掛け軸には力強い筆致で『飛翔』と書かれている。部屋の中央には長いローテーブルが置かれ、その上には目を見張るような豪華絢爛なお節料理や、巨大な舟盛りが所狭しと並べられていた。


「さあ、座れ座れ! 溢喜、優愛! 俺の横に来い!」


優誓おじいちゃんが、上座のすぐ隣、一番いい席をバンバンと叩いて指し示す。相変わらずこの人だけは、シラフでも声が大きいし、エネルギーが溢れている。


「改めて、あけましておめでとうおめでとうございます」

「今年も、よろしくお願いします」


僕と優愛が揃って頭を下げる。

以前のようなガチガチの緊張感はない。今の僕らにとって、彼らは偉大な総帥たちであると同時に、ちょっと面倒くさいけれど温かいおじいちゃんたちだ。


「おう! おめでとう! 二人とも、よく来てくれたな!」


優誓おじいちゃんが破顔する。

他の三人の祖父たち――真実おじいちゃん、爽快おじいちゃん、栄誉おじいちゃんも、孫たちの晴れ姿に目を細めていた。


「優愛の振袖、見事だぞ。俺が選んだ甲斐があったな!」

「ふふ、ありがとうおじいちゃん。すごく気に入ってるよ」

「そうかそうか! よし、今日は無礼講だ! 堅苦しいのはナシで、食って飲もう!」


優誓おじいちゃんの号令と共に、仲居さんたちが次々と日本酒やビールを運んでくる。

ここからが、光道家新年会の本番だった。


「ほれ、真実。お前も飲め飲め!」

「おお、すまん兄さん。……プハァ! 新年の酒は美味い!」


僕の祖父である真実おじいちゃんが、ビールを一気に飲み干す。

すると、みるみるうちに顔が赤くなり、さっきまでの穏やかな表情が崩れていく。


「溢喜! お前も飲まんか! ……あ、未成年か! ガハハ! 早く大きくなって、ワシと付き合え!」

「……じいちゃん、ペース早すぎない? 水も飲んでよ?」


普段は冷静な爽快おじいちゃんや栄誉おじいちゃんも、お酒が進むにつれて声のボリュームが上がっていく。


「おい栄誉、そのアワビは俺が狙っておったんじゃ!」

「早い者勝ちだ兄さん! ほら、優愛ちゃんも食べなさい。遠慮はいらんぞ!」


もはやただの賑やかな親戚の宴会だ。

高級食材が飛び交う中、僕たちも遠慮なく箸を伸ばす。


「美味しい……! この数の子、プチプチ感が違う!」

「だろう? 優愛のために、北海道から取り寄せた特級品だ!」


優誓おじいちゃんがデレデレになりながら、さらに料理を勧めてくる。

一通り食事が進み、全員がいい気分になってきた頃、爽快おじいちゃんが赤ら顔でニヤリと笑った。


「さて、二人とも。正月といえば、これを楽しみにしているんじゃないか?」


取り出されたのは、色鮮やかなポチ袋。ただし、その厚みが尋常ではない。物理的に膨らんでいる。


「ほれ、ワシからのお年玉だ。とっとけ」

「えっ、こんなに? ありがとう、爽快おじいちゃん」


僕が受け取ると、横から完全に出来上がった栄誉おじいちゃんも、別のポチ袋を出してきた。


「遠慮するなー! これは『活動資金』だ! 二人で美味いもん食うなり、旅行に行くなり好きに使え!」

「俺からもだ! 優愛、これで好きなもん買えよ!」

「溢喜、これはワシからだ! 参考書代にするか、デート代にするかは任せるぞ! ガハハ!」


次々と目の前に積み上げられるポチ袋の山。

高校生が手にしていい金額なのか少し不安になるが、ここで断るのも野暮というものだ。


「ありがとう。大切に使うよ」

「ありがとうございます!」


僕たちが笑顔でお礼を言うと、優誓おじいちゃんが真剣な顔で身を乗り出してきた。


「礼には及ばん。だがな、溢喜」

「なに?」

「その金は、決して無駄遣いするなよ。特に……」


優誓おじいちゃんが一度言葉を切り、僕と優愛を交互に見て、ニヤリと笑った。


「二人の『将来』のための貯金に回すなら、俺たちは大歓迎だぞ?」

「しょ、将来……!?」

「そうだ。具体的には、結婚式の費用とかな!」


ドッと沸く酔っ払い老人たち。優愛が「もう、おじいちゃん!」と顔を真っ赤にして抗議するが、その表情は満更でもなさそうだ。


「……気が早すぎるって」


僕が苦笑いで返すと、酔っ払って上機嫌の真実おじいちゃんが、僕の背中をバンと叩いた。


「早くないわい! お前ら、昨日も商店街で『夫婦』に間違えられたそうじゃないか!」

「なっ……なんでそれを!?」

「ガハハ! ワシらの情報網を侮るなよ? 商店街会長はワシの飲み友達じゃ!」


どうやら、商店街のネットワークから情報が漏れていたらしい。恐るべし、地元の繋がり。

赤面する僕たちを肴に、祖父たちの宴はますますヒートアップしていった。

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