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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百八十一話 深紅の振袖、言葉を失う数秒間

玄関のドアを開けると、冷たく澄んだ空気が頬を撫でた。空は雲一つない快晴。まさに「ハレの日」にふさわしい天気だ。


僕は革靴のつま先をトントンと地面で揃え、隣の家――海波家の前へと向かった。そこには、威圧感を放つ黒塗りのセダンがエンジンをかけたまま待機している。

運転席から降りてきたのは、白手袋をつけた初老の運転手さんだ。


「あけましておめでとうございます、溢喜様」

「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「お待ちしておりました。優愛様も、まもなく出てこられます」


運転手さんが後部座席のドアに手を掛けた、その時だった。海波家の玄関ドアが、ゆっくりと開いた。


「……お待たせ、溢喜」


その声に顔を上げた瞬間、僕の思考は完全に停止した。

そこには、息を呑むほど美しい「和」の少女が立っていた。


鮮やかな深紅の生地に、金糸で刺繍された蝶と桜が舞う振袖。帯は黒と金で引き締められ、大人っぽさと可憐さが絶妙なバランスで共存している。

いつもは下ろしている髪が、今日はふわっとアップにまとめられ、うなじの白さが際立っていた。髪飾りには、ちりめん細工の赤い花。

そして何より、丁寧に化粧を施された優愛の顔立ちは、普段の可愛らしさに「妖艶さ」というスパイスが加わり、直視できないほどの輝きを放っていた。


「……どう、かな?」

僕が何も言わずに固まっているのを不安に思ったのか、優愛が少し恥ずかしそうに袖を広げて見せる。白いショールの上から覗く指先が、微かに震えている。

僕は慌てて深呼吸をして、乾いた喉を潤した。


「……すごい」

語彙力が死んだ。でも、それ以外の言葉が出てこない。

「すごい、綺麗だ。……いや、綺麗すぎて、誰か分からなかった」

「ふふ、また大げさなこと言って。……でも、嬉しい」


優愛がパッと顔を輝かせ、草履で慎重に一歩を踏み出す。カラン、という小気味よい音が響く。

「溢喜も、すごく似合ってるよ。スーツ姿、五割増しでカッコいい」

「五割か。微妙な数字だな」

「ううん。……惚れ直した」


優愛が僕の目の前まで来て、少し背伸びをするようにして囁く。その距離感に、心臓が跳ね上がる。

振袖姿の彼女は、いつもより少しだけ「高嶺の花」に見えるけれど、中身はやっぱり、僕の大好きな優愛だ。


「……じゃあ、行こうか。お姫様」

僕は少し気取って、彼女に手を差し出した。着物だから腕は組めない。だからこそ、エスコートが必要だ。

「はい。お願いします、ナイト様」


優愛がふわりと笑い、僕の手に自分の手を重ねる。

白いショールと、ダークネイビーのスーツ。そして深紅の振袖。

冬の陽射しの中、僕たちは運転手さんが開けてくれたドアへと向かった。


光道家での新年会。

緊張するはずの場所へ向かうのに、繋いだ手の温もりのおかげで、不思議と足取りは軽かった。

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