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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百七十七話 六角形の運試し、重なる赤い文字

「さあ、ここが勝負だよ、溢喜!」


おみくじの授与所の前で、優愛が腕まくりをする(コートの上からだが)。


さっきの福引きでは、愛の力で見事に三等賞を引き当てた彼女だ。今の優愛には、運命をねじ伏せるだけの勢いがある。


「たかがおみくじだろ? 気楽にいこうぜ」


「甘い! 一年の計は元旦にあり、だよ。ここで『大吉』を引いて、最高のスタートダッシュを決めるの!」


優愛は百円玉をチャリンと入れ、朱色の六角形の筒を手に取った。


僕も隣で百円を入れ、筒を手に取る。


カシャカシャ、という乾いた音が、周囲のざわめきに混じる。


「いくよ……せーの!」


「ほっ!」


二人同時に筒を逆さにする。


小さな穴から、細長い竹ひごが一本ずつ飛び出した。


優愛は「二十八番」、僕は「四十二番」。


巫女さんに番号を伝え、薄い紙を受け取る。


この瞬間が、一番ドキドキする。


「……いざ、開封」


僕たちは境内の端にある街灯の下へ移動し、畳まれた紙を同時に開いた。


「あっ! やったぁ! 『大吉』だ!!」


優愛が歓声を上げ、おみくじを空に掲げる。


その笑顔は、どんな幸運よりも輝いて見えた。


「おめでとう。さすがだな」


「えへへ、でしょ? 溢喜は?」


「僕は……『中吉』だな。まあ、悪くない」


「中吉かぁ。堅実で溢喜らしいかも」


優愛が僕の手元を覗き込んでくる。


「で、大事なのは中身だよ。えっと、『恋愛』の項目は……」


優愛が自分の大吉の紙を目で追う。


そして、そこに書かれた文字を読み上げ、パッと顔を赤らめた。


「『愛、深まる時なり。迷わず想いを伝えよ。相手も同じ心なり』……だって」


「……随分と、都合のいいことが書いてあるな」


「神様公認ってことだよ! ……で、溢喜の方は?」


僕は自分の中吉に視線を落とす。


『恋愛』の欄には、こう書かれていた。


『身近な縁を大切にせよ。今の人が最良なり。決して手放すな』


「……」


読んだ瞬間、心臓がトクリと跳ねた。


まるで、僕たちの関係を見透かされているような言葉だ。


「なんて書いてあるの? 見せて!」


「いや、えっと……『待ち人、来る』とか書いてある」


「恋愛だよ、恋愛!」


優愛が強引に僕の手元を引き寄せ、文字を目で追う。


そして、読み終わると同時に、ニヤリと悪戯っぽく笑った。


「『今の人が最良なり』……だってさ」


「……うるさいな」


「『決して手放すな』……だってさ!」


優愛が嬉しそうに僕の腕にしがみついてくる。


「聞いた? 溢喜。神様命令だよ? 決して手放しちゃダメなんだからね」


「……分かってるよ。言われなくても、放すつもりはない」


僕がそっぽを向いて答えると、優愛は「素直じゃないなぁ」とクスクス笑った。


「よし! この運勢をロックするために、結んで帰ろう!」


「大吉は持って帰るもんじゃないのか?」


「いいの。溢喜の中吉と並べて結んで、二人の運命を固結びするの!」


優愛の謎理論に押し切られ、僕たちは専用の紐におみくじを結びつけた。


白と白の紙が、仲良く風に揺れている。


大吉と中吉。


完璧ではないかもしれないけれど、二人合わせれば最強の運勢だ。


「これで今年も安泰だね!」


「そうだな。……さて、最後は甘酒で温まるか」


「うん! 乾杯しに行こう!」


僕たちは結ばれたおみくじに背を向け、甘い湯気が漂う休憩所へと歩き出した。


元旦の夜は、まだまだ終わらない。

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