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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百七十六話 五円玉の輝きと、長すぎる祈り

人気の少ない木陰での「秘密の儀式」を終えた僕たちは、少し火照った顔をマフラーで隠しながら、参拝の列に戻った。


一度列を離れてしまったので、また最後尾からのスタートだ。けれど、今の僕たちには、この待ち時間さえも愛おしいイベントのように感じられた。


「……ねえ、溢喜。これ」


優愛がポケットから、何かを取り出して僕の手のひらに乗せた。

街灯の光を受けて鈍く輝く、穴の空いた硬貨。

五円玉だ。しかも、ピカピカに磨かれている。


「五円玉?」


「うん。お賽銭用。『ご縁』がありますようにって」


「用意周到だな」


「当然でしょ。神様にお願いするんだから、失礼のないように一番綺麗な五円玉を選んできたの」


優愛は自分の分も、同じように輝く五円玉を握りしめている。

こういう細かいところまで手を抜かないのが、彼女らしい。


列は牛歩のごとくゆっくりと進んでいく。

寒さは厳しいけれど、繋いだ左手と、右手にある五円玉の温もりが、僕を支えていた。


「次の方、どうぞー」


三十分ほど並んで、ようやく最前列にたどり着いた。

目の前には、巨大な木製の賽銭箱。そして、その奥には御神体が祀られた本殿が厳かに鎮座している。


「行こう、溢喜」


「ああ」


僕たちは並んで賽銭箱の前に立った。

チャリン、と音が重なる。

二枚の五円玉が、吸い込まれるように箱の中へと消えていった。


二礼、二拍手。


パン、パン、と乾いた音が冬の夜空に響く。

僕は目を閉じ、手を合わせた。


(今年も一年、家族や友人が健康で過ごせますように。……そして、優愛とずっと笑っていられますように)


ありきたりなお願いかもしれないけれど、それが一番の願いだ。

数秒ほど祈ってから目を開け、最後に一礼をして横を向く。


「……」


優愛はまだ、祈っていた。

目を固く閉じ、眉間に少し皺を寄せ、手と手を強く合わせている。

その姿は真剣そのもので、鬼気迫るものすら感じさせる。


(……長いな)


十秒、二十秒。

後ろの人が少しざわつき始めても、優愛の祈りは終わらない。

神様に手紙でも朗読しているのだろうか。


「……優愛、そろそろ」


僕が小声で声をかけようとしたその時、ようやく優愛が目を開けた。

ふぅ、と深く息を吐き、満足げに最後の一礼をする。


「お待たせ! 行こっか」


境内の脇へと移動してから、僕は恐る恐る尋ねた。


「なあ、随分と長かったけど……何をお願いしてたんだ?」


「え? 秘密だよ。願い事は口に出すと叶わなくなっちゃうから」


優愛は人差し指を唇に当てて、悪戯っぽく笑う。


「でもまあ、ヒントだけあげるとね……」


彼女は僕の耳元に顔を寄せ、内緒話をするように囁いた。


「『溢喜の周りから、悪い虫がいなくなりますように』とか、『溢喜が私以外を好きになりませんように』とか、『来年も再来年も、その次もずっと一緒にいられますように』とか……あと十個くらいかな?」


「……神様、過労死しないか?」


「大丈夫だよ。五円玉、ピカピカだったから」


優愛はケラケラと笑い、僕の腕にギュッと抱きついてきた。

新年早々、愛が重い。

けれど、その重みこそが、僕にとっては何よりの「福」なのかもしれない。


「さてと! お願いも済んだし、次はお楽しみだね!」


「お楽しみ?」


「おみくじと、甘酒! 運試ししなきゃ!」


優愛が指差した先には、おみくじを振る人々の姿があった。

元旦の運試し。

彼女の愛の重さに耐えられるだけの「大吉」を引けるかどうか、僕の運命が試されようとしていた。

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