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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百七十五話 雑踏の中の静寂、甘酒よりも甘い口づけ

歓声と拍手が響き渡る中、僕たちは改めて向き合った。

寒さで頬を赤くした優愛が、白い息を吐きながらニコニコと笑っている。


「今年もよろしくね、溢喜!」


「ああ。今年もよろしく、優愛」


優愛がマフラーに顔を埋めたまま、目だけで笑う仕草が可愛い。

周りは「おめでとう」と言い合う人々でごった返しているけれど、僕たちの周りだけ、少しだけ空気が違う気がした。


「……ねえ、溢喜」


優愛が、僕のコートの袖をクイッと引く。

そのまま、人波を避けるように、境内の少し暗がりにある大きな木の陰へと誘導された。

メインの参道からは死角になっている場所だ。


「どうした?」


「……今年最初のお願い、聞いてくれる?」


優愛が上目遣いで、少し潤んだ瞳を向けてくる。

その意味を察せないほど、僕は野暮じゃない。

心臓が、除夜の鐘よりもうるさく鳴り始める。


「なんだよ」


「……ん」


優愛が目を閉じ、顎を少し上げる。

マフラーから覗く唇は、寒さで少し白くなっているけれど、柔らかそうだ。


周囲の喧騒が、ふっと遠のく。

僕は周りを軽く警戒してから――誰も見ていないことを確認し、そっと身を屈めた。


触れたのは、ほんの一瞬。

冷たい空気の中で、そこだけが驚くほど温かかった。


「……へへ、叶った」


目を開けた優愛が、照れくさそうに、でも幸せそうに微笑む。


「今年も、溢喜が大好きだよ」


「……僕もだ」


新年早々、甘酒を飲む前から胸焼けしそうなほど甘い。

でも、これが僕たちの「日常」になっていくのだとしたら、悪くない。むしろ最高だ。


「よし! じゃあ、お参りに行こっか!」


「そうだな。神様に怒られないようにしないとな」


「大丈夫だよ。神様もきっと、『仲良きことは美しきかな』って許してくれるよ」


優愛は悪戯っぽく舌を出すと、僕の手を強く握りしめた。

僕たちは再び人混みの中へ戻り、本殿へと続く列に並び直した。


頭上には冬の夜空。

新しい一年が、これ以上ない最高の形でスタートした。

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