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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百七十四話 境内の焚き火と、ゼロ秒の瞬間

神社の鳥居をくぐると、そこは別世界のような熱気に包まれていた。

参道の両脇には提灯が連なり、オレンジ色の暖かい光が雪道を照らしている。普段は静かな境内だが、今夜ばかりは老若男女で溢れかえり、話し声と笑い声がさざめきのように響き渡っていた。


「うわあ、すごい人! 去年より多くない?」


優愛が驚いて声を上げる。僕ははぐれないように、ポケットの中で握っていた彼女の手をさらに強く引き寄せた。


「そうかもな。みんな、この寒さの中で元気だよな」


「私たちもね。……あ、見て溢喜! 焚き火だ!」


優愛が指差した先、手水舎の近くで大きな焚き火がパチパチと音を立てて燃え盛っていた。その周りには暖を取る人々が集まり、煙の匂いと、どこからか漂う甘酒の甘い香りが混じり合っている。


「並ぶ前に、少し暖まっていくか?」


「うん! 指先がちょっと冷えてきたかも」


僕たちは焚き火の輪に加わった。揺らめく炎を見つめていると、体の芯から冷たさが抜けていくようだ。

優愛の顔が炎に照らされて赤く染まっているのが、寒さのせいなのか、炎のせいなのか、それとも別の理由なのかは分からないけれど、とても綺麗に見えた。


「……ねえ、溢喜」


優愛が炎を見つめたまま、そっと囁く。


「今年も、あと五分だよ」


「ああ。あっという間だったな」


「来年は、もっと楽しい一年になるかな?」


「するんだよ。僕たちが」


僕が言うと、優愛はこちらを向いて、ニカっと満面の笑みを浮かべた。


「だね! 溢喜となら、絶対楽しいもん!」


その笑顔は、焚き火よりも明るく、僕の心を温めてくれた。


「そろそろ、列に並ぼうか。年が明けちゃう」


「そうだね。行こう!」


僕たちは焚き火を離れ、本殿へと続く長い列の最後尾についた。周りの人々も、スマホを見ながらソワソワし始めている。

優愛が自分のスマホを取り出し、画面を僕に見せてきた。

時刻は二十三時五十九分。秒数が、刻一刻と進んでいく。


「あと三十秒……」


境内のあちこちから、自然発生的にカウントダウンの声が上がり始めた。


「十、九、八……」


僕たちは顔を見合わせ、繋いだ手にぐっと力を込めた。優愛の瞳に、僕の顔が映っている。


「三、二、一……」


ゼロ。


「「あけましておめでとう!!」」


ドォーン! という太鼓の音と、人々の歓声が同時に弾けた。頭上では、除夜の鐘がゴーンと重厚な音を響かせる。

新しい年が、来た。

優愛が興奮した様子で、僕の腕に抱きついてくる。


「あけましておめでとう、溢喜! 今年もよろしくね!」


「ああ。あけましておめでとう、優愛。今年も……いや、これからもずっと、よろしくな」


寒空の下、白い息を吐きながら笑い合う。

世界中で一番最初に交わす言葉が、大好きな人への挨拶だなんて、これ以上の贅沢はないだろう。

僕たちは新しい一年の始まりを、最高の距離感で迎えることができた。

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