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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百七十二話 デジタルな密会、進まない時計の針

優愛が帰ってから、家の中が急に静かになった気がした。


僕はお風呂に入り、パジャマではなく、初詣に行くための服に着替えて部屋に戻った。


時計を見る。

時刻は二十一時過ぎ。

約束の十一時半まで、まだ二時間以上ある。


「……長いな」


いつもならあっという間に過ぎる時間が、今夜はやけにゆっくり流れているように感じる。

リビングに降りれば両親がいるけれど、今は少し一人でいたい気分だった。

ベッドに寝転がり、テレビをつける。

画面の中では、国民的アイドルグループが笑顔で踊っているけれど、僕の意識は隣の家に向いていた。


ピコン。


枕元のスマホが鳴る。

待ってましたとばかりに画面を見ると、優愛からのメッセージだった。


『お風呂上がった! 今、ドライヤー中』

『テレビ見てる? 今の歌手、溢喜の好きな人だよ』


同じ番組を見ているらしい。

離れていても、同じ時間を共有している感覚。


『見てるよ。優愛の方は? お父さんと晩酌中か?』


『ううん、お父さんはもうコタツで寝ちゃいそう(笑)。起こすの大変かも』


『寝かせておいてやれよ。連日の大掃除でお疲れなんだろ』


『だねー。……ねえ、溢喜』


『ん?』


『早く十一時半にならないかな』


その一言に、僕の口元が勝手に緩む。

僕と同じことを考えていたんだ。


『あと二時間もあるな』


『長いよー。ねえ、通話繋げっぱなしにしててもいい?』


『いいけど、お父さん起きないか?』


『小声で喋るから平気!』


すぐに着信画面に切り替わり、僕は通話ボタンを押した。


「……もしもし?」


『あ、もしもし。……ふふ、聞こえる』


優愛の声は、確かにひそひそ声だった。

背景から、テレビの音が微かに聞こえる。

僕の部屋のテレビの音と、優愛の部屋のテレビの音が、数秒のズレもなく重なる。


「本当に同じ番組見てるんだな」


『当たり前でしょ。……あ、この衣装可愛い』


「僕はさっきの演歌歌手のセットの方が気になったけどな。派手すぎて」


『あはは、確かに!』


他愛もない会話。

けれど、受話器越しに聞こえる優愛の息遣いや、時折混じる衣擦れの音が、すぐ隣にいるような錯覚を起こさせる。


「……ねえ、溢喜」


『ん?』


「来年も、こうやって一緒にテレビ見ながら、ダラダラ過ごせたらいいな」


『……そうだな。来年はコタツ並べて、直接話そうぜ』


『うん! 約束だよ!』


窓の外では雪が音もなく降り積もっている。

僕たちはスマホを通じて、今年最後の「待ち時間」を楽しんでいた。

時計の針はゆっくりと、でも確実に「その時」へと近づいている。

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