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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百六十六話 ハンバーグの湯気と、当たり前の隣

「いただきまーす!」


食卓には、母さん特製の大きなハンバーグと、サラダ、そしてカニの入った味噌汁が並んでいた。

大掃除で体を動かした両親と、頭を使ってお腹を空かせた僕たち。

四人で囲む食卓は、湯気と共に温かな活気に満ちていた。


「うん、美味しい! やっぱりお母さんのハンバーグは最高です!」

「あらあら、優愛ちゃんったら口が上手なんだから。でも、たくさん食べてね」

「はい!」


優愛は幸せそうに頬張り、母さんはそれを見て目を細める。

父さんはビールを飲みながら、僕らが広げていた作業の成果について尋ねてきた。


「さっきまで何してたんだ? 随分と静かだったが」

「ああ、今度のスキー旅行の『しおり』を作ってたんだよ。流満ちゃんたち用に」

「へえ、感心だな。どれ、父さんにも見せてみろ」


僕がコタツの上に置いてあった原稿を渡すと、父さんと母さんはそれを覗き込み、「あら可愛い」「よく描けてるじゃないか」と感心した声を上げた。

その様子を横で見ながら、僕はふと、不思議な感覚に包まれていた。


(……なんか、すげー自然だな)


思えば、この冬休みに入ってから――いや、その前のクルーズ旅行からずっと、僕と優愛はほとんどの時間を一緒に過ごしている。

朝起きて、顔を合わせて。

昼間はずっと一緒に行動して。

そして夜も、こうして当たり前のように同じ食卓を囲んでいる。


昔なら「幼馴染だから」という理由だけで納得していたかもしれない。

でも今は違う。「恋人」として、そして「パートナー」として隣にいる。

普通なら、ずっと一緒にいすぎると疲れたり、一人の時間が欲しくなったりするものなのかもしれないけれど。


優愛との時間は、ちっとも疲れない。

むしろ、隣に彼女がいない時間の方が不自然に感じてしまうくらい、僕の生活に溶け込んでいる。

商店街で「ご夫婦」と言われた時のことを思い出す。

この空気感は、確かにそう見間違えられても仕方がないのかもしれない。


「……溢喜? どうしたの、箸止まってるよ?」


隣から優愛に覗き込まれ、僕はハッと我に返った。

彼女の瞳には、何の屈託もない色が宿っている。


「いや……なんでもない。ハンバーグ、美味いなって噛み締めてただけ」

「ふふ、なにそれ。大げさだなぁ」


優愛が笑うと、つられて僕も笑う。両親も笑う。

この「当たり前」が、何よりも愛おしい。

僕はずっと一緒にいるこの心地よさを、ハンバーグと一緒に飲み込んだ。


夕食後、デザートのリンゴまでしっかりご馳走になった優愛は、満足げに立ち上がった。


「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」

「いつでもいらっしゃい。優愛ちゃんが来ると、溢喜も嬉しそうだしね」

「母さん、余計なこと言わなくていいから」


ニヤニヤする両親に見送られ、僕は優愛を玄関の外まで送った。

外はすっかり夜の闇に包まれ、冷たい風が吹いている。

けれど、家から漏れる光と、夕食の温かさが僕らを包んでいた。


「今日はありがとな。しおり作り、手伝ってくれて」

「ううん、私も楽しかった! 明日、清書してコピーしてくるね」

「悪いな。頼むよ」


優愛は「うん!」と元気よく頷くと、隣の自分の家の方へと体を向けた。

数歩歩いて、ふと立ち止まり、振り返る。


「ねえ、溢喜」

「ん?」

「明日も、明後日も……ずっと一緒だね」


僕が考えていたことを見透かしたように、優愛が言った。

その言葉が、凍てつく夜空の下で、ぽっと灯った明かりのように温かい。


「……ああ。飽きるまで、一緒にいてやるよ」

「飽きないもん! ……じゃあね、おやすみ!」


優愛はベッと舌を出して悪戯っぽく笑うと、パタパタと自分の家へ駆け込んでいった。

ガチャリ、と隣のドアが閉まる音。

静寂が戻った玄関先で、僕は一人、白い息を吐きながら呟いた。


「……おやすみ」


二十九日の夜が終わる。

明日目が覚めても、きっと彼女は当たり前のように僕の隣にいる。

その確信だけで、今日はいい夢が見られそうだった。

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