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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百六十二話 十キロの重みと、五千円の行方

「……よいしょ、っと」


商店街からの帰り道。

僕は腕の中で主張を強める十キロのみかん箱を持ち直した。

行きは「愛の力で軽く感じる」なんて格好いいことを言ったけれど、やはり物理法則は絶対だ。

歩く距離に比例して、みかんたちはその存在感を増していく。


「溢喜、大丈夫? 重くない?」


隣を歩く優愛が、心配そうに僕の顔を覗き込む。

彼女の手には、しめ縄が入ったビニール袋と、先ほどゲットした五千円の商品券が入った封筒。

足取りは軽やかで、スキップでもし出しそうな雰囲気だ。


「平気だよ。これくらい、いい筋トレになる」


「無理しないでね? 半分持ってあげたいけど、さすがに箱は半分こできないし……」


「気持ちだけで十分だ。優愛は、その大事な商品券を落とさないように守っててくれ」


僕が強がって見せると、優愛は「はーい」と可愛らしく返事をして、封筒を胸に抱きしめた。


「ねえ、この五千円、何に使おうか?」


「優愛が当てたんだから、優愛が好きなものに使えばいいよ。新しいマフラーとか、アクセサリーとか」


僕が提案すると、優愛は即座に首を横に振った。


「だーめ。これは『二人』で当てたんだよ? 溢喜がみかん買ってくれなかったら、補助券たまらなかったんだし」


「まあ、出資者は僕だけど」


「でしょ? だから、二人のために使うのが正解なの」


優愛は楽しそうに、封筒を空にかざす。

冬の陽射しを透かして、商品券が輝いて見える。


「二人のため、か。……じゃあ、今度美味しいケーキでも食べに行くか?」


「それもいいけど……あ、そうだ!」


優愛が何かを思いついたように、パチンと指を鳴らした。


「これ、スキー旅行の時の『おやつ代』にしない?」


「おやつ代?」


「うん! バスの中で食べるお菓子とか、飲み物とか。五千円あれば、高級チョコとか買えちゃうよ? はとこ会のみんなにも差し入れできるし!」


なるほど、その手があったか。

自分の欲しいものではなく、これから来る楽しみのために、そしてみんなのために使う。

いかにも優愛らしい、優しくてワクワクする提案だ。


「……いいな、それ。採用」


「やった! じゃあ、これは旅行まで大事に保管しておきます!」


優愛は嬉しそうに封筒をポケットにしまい込み、再び僕の隣に並んだ。


「楽しみだね、スキー旅行」


「ああ。……でもその前に、このみかんを無事に家に届けないとな」


「ふふ、頑張れー! お家まであとちょっとだよ!」


優愛が僕の腕(みかん箱を支えている部分)を、ツンツンと指でつつく。

その些細なスキンシップが、疲れた腕に不思議なパワーを与えてくれる。


「着いたー!」


ようやく自宅の前に到着した。

僕はみかん箱を玄関のコンクリートの上に下ろし、大きく息を吐いた。

腕がプルプルと震えているけれど、達成感はひとしおだ。


「お疲れ様、溢喜! すごいすごい!」


優愛が僕の頭をわしゃわしゃと撫でて労ってくれる。

子供扱いされている気もするが、ご褒美だと思って甘んじて受け入れておく。


「じゃあ、私はしめ縄持って帰るね。また後で!」


「おう。また後でな」


優愛は自分の家用のしめ縄を持って、隣の家へと入っていった。

僕もみかん箱を抱え直し、自宅のドアを開ける。


「ただいまー。みかん、買ってきたぞー」


家の中は暖房が効いていて暖かい。

重たい荷物を運び終えた安堵感と、優愛と決めた「五千円の使い道」への期待。

平凡な年末の一日が、また一つ、幸せな記憶として積み重なった。

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