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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百五十九話 オレンジ色の宝石と、幸運へのチケット

「へいらっしゃい! 甘いよ甘いよ! こたつのお供に最高だよ!」


しめ縄の入った袋を提げて数分。僕たちは、威勢のいい声が響く青果店の前にいた。

店先には、鮮やかなオレンジ色のみかんが、赤いネットに入れられたり、段ボール箱に詰められたりして山積みになっている。


「うわぁ、いい香り……!」


優愛が目を輝かせて、みかんの山に駆け寄る。

柑橘系特有の爽やかな香りが、冷たい空気の中に漂っている。


「お母さんからの指令は『箱買い』ね。お正月休みの間に、コタツで無限に食べる用だから」


「海波家の消費量、すごくないか?」


「親戚も来るからね。……よし、溢喜。美味しいみかんを見極めるから、ついてきて」


優愛は真剣な表情で、いくつかの箱を見比べ始めた。

皮の色艶、ヘタの大きさ、そして形。

彼女はまるで鑑定士のように、一つ一つを吟味していく。


「お嬢ちゃん、みかいかい? 味見していく?」


店主のおじちゃんが、皮を剥いたみかんを一房差し出してくれた。


「いいんですか? ありがとうございます!」


優愛は嬉しそうにそれを受け取り、パクりと口に入れる。

途端に、彼女の頬が緩んだ。


「ん~! 甘い! 酸味もちょうどいいです!」


「だろ? 今年の出来は最高なんだよ」


「溢喜、溢喜。はい、あーん」


優愛は感想もそこそこに、残りの半分を僕の口元に差し出してくる。

人混みの中だろうと、店主のおじちゃんが見ていようと、今の優愛には関係ないらしい。

僕は少し照れながらも、口を開けて受け取った。


「……ん、美味い。味が濃いな」


「でしょ? これなら間違いなしだね。おじさん、この箱ください!」


「毎度あり! お兄ちゃん、力持ちそうだから持てるよね?」


おじちゃんがニカっと笑い、十キロ入りの段ボール箱をドンとカウンターに置いた。

しめ縄に加えて、みかん箱。

僕の腕力が試される時が来たようだ。


「……任せてください。優愛のためなら、これくらい」


僕は気合を入れて箱を持ち上げた。

ずしりと重い。けれど、隣で優愛が「頑張れ、私のヒーロー!」と小声で応援してくれるだけで、不思議と軽く感じるから単純だ。


「はい、お釣りね。……っと、そうだ。これもおまけ」


おじちゃんはお釣りと共に、ピンク色の薄い紙を数枚手渡してくれた。

商店街の名前が入った、「福引き補助券」だ。


「商店街の広場で福引きやってるから。あと一枚で一回回せるよ」


「え、福引きですか? ありがとうございます!」


優愛が券を受け取り、枚数を確認する。

補助券は四枚。あと一枚あれば、ガラガラを一回回せる計算だ。


店を離れ、人混みの少ない路地へ移動する。

僕はみかん箱を抱え直し、優愛は大事そうに補助券を見つめていた。


「ねえ、溢喜。あと一枚だよ」


「そうだな。何か適当なもの買えばもらえるかな」


「どうせなら、お昼ご飯食べてゲットしない? お腹も空いてきたし」


時計を見ると、もう正午を回っていた。

朝ごはんをしっかり食べたとはいえ、買い物で歩き回ったせいか、確かにお腹が空いている。


「賛成。何食べる?」


「あったかいものがいいな。……あ、あそこのお蕎麦屋さん、いい匂いがする」


優愛が指差したのは、湯気が立ち上る老舗のお蕎麦屋さんだった。

年末に蕎麦。

これ以上ない完璧なチョイスだ。


「よし、行こう。食べて、券もらって、一等賞狙うぞ」


「おー! ハワイ旅行とか当たったらどうしよう!」


「さすがにそれはないと思うけど……ま、夢を見るのは自由だ」


僕たちはみかん箱の重みと、小さなピンク色の紙切れに夢を乗せて、出汁の香りが漂う方角へと歩き出した。

年末の商店街デートは、まだまだ終わらない。

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