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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百五十七話 よそ見厳禁、その理由

ポケットの中で繋がれた手。

その温もりに意識を集中させすぎたせいだろうか、それとも、隣を歩く「彼女」の横顔があまりにも絵になりすぎていたせいだろうか。


僕は完全に、前方への注意を怠っていた。


「……」


マフラーに顎を埋め、白い息を吐きながら歩く優愛。

長いまつ毛には、冬の澄んだ空気が絡まり、瞬きをするたびに揺れている。

その瞳が、ショーウィンドウに映る景色をキラキラと反射している様子に見惚れてしまっていた。


チリン、チリン!


「――っ、溢喜!」


不意に聞こえた自転車のベルの音と、優愛の鋭い声。

同時に、ポケットに入っていた左手を、強烈な力でグイッと引かれた。


「わっ!?」


僕の体は優愛の方へとよろめき、その直後、僕がさっきまで歩こうとしていた場所を、一台の自転車が風を切って通り過ぎていった。

おばちゃんがペダルを漕ぐ自転車は、あっという間に遠ざかっていく。


「……あ、ぶな……」


心臓がドクンと大きく跳ねた。

もし優愛が引いてくれなかったら、接触していただろう。


「もう! 危ないでしょ、溢喜!」


優愛が立ち止まり、眉を吊り上げて僕を睨みつけてくる。

その頬は膨らみ、まさしく「お説教モード」の顔だ。


「ぼーっと歩かないの。ここは道幅が狭いんだから、ちゃんと前見てないとダメでしょ?」


「……ごめん。面目ない」


「本当に……。私が手を繋いでなかったら、どうなってたと思うの? 怪我したら、スキー旅行だって行けなくなっちゃうんだよ?」


優愛の言葉は正論すぎて、ぐうの音も出ない。

彼女は僕の無事を心配してくれているからこそ、こうして本気で怒ってくれるのだ。

その剣幕に、僕は小さくなるしかない……はずだったが。


「だって、しょうがないだろ」


「……何が?」


「優愛の横顔が可愛すぎて、つい見惚れてたんだよ。あんなの見せられたら、男なら誰だって前なんて見てられないって」


開き直りとも取れる僕の言い訳に、優愛の怒りの表情がピタリと凍りついた。


「は……?」


「だから、優愛に見惚れてて、自転車に気づかなかった。僕の不注意だけど、半分くらいは優愛のせいでもある」


「なっ、ななな……」


優愛の顔色が、怒りの赤から、羞恥の真っ赤へと瞬時に変わっていく。

口をパクパクとさせ、何か言い返そうとしているようだが、言葉が出てこないらしい。

さっきまでの威勢の良さはどこへやら。


「……ば、バカっ!」


ようやく絞り出したのは、そんなありきたりな罵倒だった。

優愛は僕から視線を逸らし、マフラーで顔を半分以上隠してしまう。


「……そんなこと言っても、許さないんだから」


「はいはい。以後、気をつけます」


「……絶対、反省してない」


優愛は拗ねたように言うと、ポケットの中の手を、痛いくらいに強く握りしめてきた。


「……もう。溢喜は本当に、私がいないとダメなんだから」


「ああ、そうかもな」


「だから……ちゃんと、私が守ってあげる」


消え入りそうな声で呟かれたその言葉は、自転車の去った後の静かな通りに、甘く溶けていった。

叱られているはずなのに、どうしてこんなに幸せな気分になるんだろう。


「ほら、行くよ! 今度はちゃんと前見ててよね!」


「了解。パートナー様」


優愛が僕を引っ張るようにして、再び歩き出す。

その耳は真っ赤に染まっていて、僕はまたしても見惚れそうになるのを、理性で必死に食い止めた。

前を見なければ。

でも、隣も見たい。

そんな贅沢な悩みを抱えながら、僕たちは商店街の入り口を示すアーチをくぐった。

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