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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百五十六話 マフラーの死角と、ポケットの秘密

公園を出て、大通りへと続く歩道を歩く。


優愛は僕の左腕に自分の右腕をしっかりと絡ませ、ピッタリと体を寄せて歩いている。

正直に言えば、ものすごく歩きにくい。

足並みを揃えなければならないし、腕の自由も効かない。

けれど、この「不自由さ」こそが、恋人同士の特権なのだと思うと、急に愛おしく感じられるから不思議だ。


「……ねえ、溢喜」


「ん?」


「重くない? 私、着膨れしてるから」


優愛がマフラーに顔を半分埋めたまま、上目遣いで聞いてくる。

確かに、厚手のコートにマフラー、そしてセーターと、完全防寒装備の優愛は、いつもより一回りモコモコしている。

その姿は小動物みたいで、重いどころか可愛さしか感じない。


「全然。むしろ温かくて助かるよ。暖房器具を持ち歩いてるみたいで」


「むー。人をカイロ扱いしないでください」


優愛は唇を尖らせると、抗議の印とばかりに、さらにギュッと腕に力を込めてきた。

柔らかい感触が二の腕に伝わり、僕は思わず空を見上げて深呼吸をする。

冬の冷たい空気が、火照った顔を冷やすのにちょうどいい。


「あ、そうだ」


不意に、優愛が足を止めた。

絡めていた腕を解く。

一瞬、離れてしまった体温に寂しさを覚えたが、優愛はすぐに新しい行動に出た。


「……ここ、お邪魔します」


彼女は僕のコートの左ポケットに、自分の右手を強引にねじ込んできたのだ。

ポケットの中で、僕の手と優愛の手が触れ合う。

そして、冷たい彼女の指が、僕の指に絡みつき、しっかりと繋がれた。


「……これなら、もっと温かいでしょ?」


優愛がニシシと悪戯っぽく笑う。

一つのポケットに、二人の手。

距離は腕を組んでいた時よりもさらに縮まり、肩と肩が触れ合うたびにドキドキする。


「……優愛さん、これ、歩くの難易度高くない?」


「そう? 二人三脚みたいで楽しいじゃん」


「転んだら二人まとめてアウトだぞ」


「その時は、溢喜が下敷きになって守ってね?」


「無茶言うなぁ……」


文句を言いつつも、僕はポケットの中の手を強く握り返した。

優愛の手はまだ少し冷たいけれど、こうしていればすぐに温まるだろう。


通り過ぎる車や、自転車に乗った近所の人たち。

周りの景色はいつもと同じ「地元の冬」なのに、優愛とこうして歩いているだけで、世界がキラキラと輝いて見える。


「あ、見て溢喜。あそこの家のワンちゃん、服着てる」


「本当だ。サンタの服……いや、もうクリスマス終わってるけどな」


「ふふ、可愛い。私たちもペアルックとかしてみる?」


「……ハードル高いな。マフラーくらいなら、まあ」


「言ったね? 今度お揃いの買おうね!」


他愛もない会話を交わしながら、僕たちはゆっくりと歩を進める。

目的地である商店街までは、まだもう少し距離がある。

けれど、この甘くて温かい道のりが続くなら、到着が遅れるのも悪くない。


マフラーに隠れて見えないけれど、きっと優愛も同じような顔をして笑っている気がした。

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