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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百五十二話 台所の攻防戦、母の鋭いツッコミ

玄関での荷物搬入という肉体労働を終え、僕たちは戦場をキッチンへと移した。

父さんが買ってきた大量の食材は、冷蔵庫の許容量をギリギリ攻めている。


「ほら溢喜、その発泡スチロールはベランダに出して!」

「優愛ちゃん、ごめんね、このネギ洗ってもらっていい?」

「あ、お父さんはビール冷やしといて!」


母さんの的確な指示が飛び交い、静かだった我が家は一気に年末の活気を取り戻していた。

僕は言われた通りに空き箱を片付け、再びキッチンへと戻る。

そこには、並んで洗い物をする母さんと優愛の姿があった。二人ともエプロンをつけて、楽しそうに談笑している。その背中は、まるで本当の親子のようでもあり、あるいは。


「あら、溢喜。ボサッとしてないで、カニの下処理手伝ってちょうだい」

「へいへい。……ていうか、優愛、完全に我が家に馴染んでるな」

「えへへ、そうかな? おばさんのお手伝い、楽しいよ」


優愛が泡のついた手でVサインを作って見せる。その笑顔に癒やされつつ、僕はシンクの横でカニのパックを開封し始めた。

すると、母さんが不意にニヤリと笑みを浮かべて僕の方を見た。


「そういえば優愛ちゃん。今日は朝からずっと溢喜と一緒だったんでしょ? 親もいない家で」

「あ、はい。お昼ご飯も一緒に作って、宿題もやってました」

「あらあら、まあまあ。若いっていいわねぇ。誰もいない家で、二人きり……ふふっ」


母さんの意味深な笑いに、僕の手が滑ってカニの脚を一本落としそうになる。


「母さん、変な想像しないでよ。ちゃんと真面目に勉強してたんだから」

「誰も変なことなんて言ってないじゃない。ねえ、あなた?」

「ん? おう、溢喜も優愛ちゃんも、仲が良いのはいいことだぞ。ガハハ!」


リビングで早々にビールを開けている父さんが、豪快に笑う。この親たちは、本当に。


「でも、本当にお母さん、助かってるのよ。優愛ちゃんみたいな子が溢喜のお嫁さんになってくれたら、老後も安泰なんだけどねぇ」

「よ、嫁だなんて……まだ気が早いですけど……でも、そうなれたら嬉しい、かな」


優愛が顔を真っ赤にして、消え入りそうな声で呟く。

その破壊力抜群の反応に、母さんは「可愛い~!」と身悶えし、僕は顔から火が出るのを必死に堪えてカニと向き合った。


キッチンに充満する出汁の香りと、少しの恥ずかしさ。

窓の外は真っ暗な冬の夜だけど、この狭い台所だけは、真夏のように熱気が渦巻いている。

夕飯の鍋が煮える前から、僕たちはもう十分温まっていた。


日常の中に溶け込む「特別」な関係。

それを家族公認でからかわれるのも、なんだかんだ言って、悪くない年末の風景だ。

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