表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
149/186

第百四十九話 冷蔵庫の余り物と、あーんの特権

「よし! 全問正解。溢喜、やればできるじゃん」


赤ペンを持った優愛が、僕のノートに大きく花丸を描いた。

その瞬間、僕は溜めていた息を大きく吐き出し、コタツの天板に突っ伏した。


「……死ぬかと思った」

「大げさだなぁ。でも、約束通り休憩にしてあげる。偉い偉い」


優愛がご褒美とばかりに、僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。

子供扱いされている気もするけれど、その手が温かくて心地いいから、文句は言わないでおく。

ふと時計を見ると、時刻はもう十二時半を回っていた。

朝ごはんをしっかり食べたはずなのに、頭を使ったせいか、お腹が空いてくる頃合いだ。


「お昼、どうする? お母さんのメモには『適当に食べて』って書いてあったけど」

「そうだなぁ。出前とるのもあれだし、何か作る?」

「賛成。冷蔵庫の中身、確認しに行こうか」


僕たちは重い腰を上げ、再びキッチンへと向かった。

両親が買い出しに行っているため、冷蔵庫の中は比較的スペースが空いている。

あるのは、朝の残りの冷やご飯、卵、ハム、そして長ネギくらいか。


「……チャーハン一択だね」

「異議なし。私、フライパン振るから、溢喜は材料切ってくれる?」

「了解。料理長」


エプロン姿のままの優愛がコンロの前に立ち、僕がまな板に向かう。

トントントン、とネギを刻む音と、優愛が卵を溶く音がキッチンに重なる。

並んで料理をする。

ただそれだけのことなのに、妙に胸が躍る。

クルーズ船の豪華な食事も良かったけれど、こうやって「生活」をしている感じが、今の僕にはたまらなく愛おしい。


「溢喜、ネギまだー?」

「へいへい、今終わりましたよ」

「じゃあ投入! 強火で行くよ!」


ジャアアッ! という景気のいい音と共に、香ばしい匂いが立ち昇る。

優愛の手際は鮮やかだ。重たい中華鍋を器用に振り、ご飯と具材を宙に舞わせる。

その横顔は真剣そのもので、僕は思わず見惚れて手を止めてしまいそうになる。


「よし、味見。……溢喜、口開けて」

「え?」

「ほら、味見だってば。あーん」


優愛がレンゲに少しだけチャーハンをすくい、フーフーと息を吹きかけてから、僕の口元に差し出してくる。

自然な動作すぎて、断る隙もない。

僕は観念して口を開けた。


「……どう?」

「ん、美味い。塩加減ばっちり」

「よかった! じゃあ完成ね」


優愛は満足げに笑うと、お皿にチャーハンを盛り付け始めた。

出来上がった黄金色の山をテーブルに運び、二人並んで座る。

湯気が立ち上るシンプルなチャーハン。

でも、これが世界で一番贅沢なランチだということを、僕は知っている。


「いただきます」

「召し上がれ」


一口食べると、パラパラとした食感の中に、卵の甘みとハムの塩気が絶妙なバランスで広がった。

美味しい。

そして何より、優愛が僕のために作ってくれたという事実が、最高の調味料だ。


「ねえ、溢喜」

「ん?」

「美味しい?」

「最高。お店出せるレベル」

「ふふ、お世辞が上手になりました。……でも、溢喜が美味しいなら、毎日でも作ってあげたいな」


優愛がさらりと爆弾発言を落とす。

彼女は自分の発言の意味に気づいているのかいないのか、嬉しそうにスプーンを口に運んでいる。

「毎日」って、それってつまり……。

僕はカッと熱くなる顔をチャーハンの湯気で誤魔化しながら、水を一気に飲み干した。


宿題という強敵を倒し、美味しいお昼ごはんも食べた。

外はまだ明るい。

両親が帰ってくる夕方まで、僕たちの「自由時間」はもう少しだけ続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ