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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第八章 冬の寒さと、恋の温かさ
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第百四十六話 南国の余韻と、置き手紙

「……起きれん」


日曜日の朝。

カーテンの隙間から差し込む光は、無情にも朝の到来を告げているが、僕の体は布団という名の重力圏から脱出できずにいた。

壁掛け時計の針は、もう九時を回ろうとしている。

クルーズ船では、毎朝優愛からのモーニングコール(という名の襲撃)があったり、美味しいビュッフェのために早起きしたりしていたけれど、ここは日本の、僕の自室だ。


「……静かだな」


今日は日曜日だから、両親がいるはずだ。

だけど、階下からはテレビの音も、母さんが掃除機をかける音も聞こえてこない。

不思議に思って、のろのろとベッドから這い出し、寒さに震えながらリビングへと降りてみた。

案の定、リビングには誰もいない。

その代わり、ダイニングテーブルの上に一枚のメモ用紙が置かれていた。


『おはよう、溢喜。

お父さんと一緒に、年末の買い出しに行ってきます(市場は混むから早めに出発!)。

お正月用のカニと数の子をゲットするまでは帰れません。

お昼は適当に食べてね。夕方には戻るわ。 母より』


「……なるほど」


メモを見て納得した。

我が家の年末行事、恐怖の「市場への買い出しツアー」だ。

毎年この時期の母さんの気合は凄まじい。父さんが荷物持ちとして連行されるのは、もはや恒例行事と言っていいだろう。

つまり、今日の僕は、夕方まで「自由」ということだ。


「よし、二度寝しよう」


そう決意して、踵を返そうとした瞬間、手の中のスマホが震えた。


『おはよー。まだ寝てる?』


画面を点灯させると、タイミングよく優愛からのメッセージが入っていた。

まるで監視カメラでもついているかのようなタイミングだ。


『おはよう。今、起きたところ』

『おじさんたちは? もう出かけた?』

『うん。カニを求めて戦場(市場)へ旅立ったよ』

『了解! じゃあ、今から行くね』


返信をして、ほんの数分後だった。

静まり返った家に、軽快な電子音が響き渡った。


ピンポーン。


「うわ、もう来たのか」


僕は慌てて寝癖だけ手櫛で整えると、玄関へと走った。

鍵を開けてドアを引くと、そこには白い息を吐きながら、少し体を縮こませている優愛の姿があった。


「おはよ、溢喜! ……さっむーい!」

「おはよう。早く入れよ、風邪引くぞ」


入ってきたのは、薄いピンクのトレーナーにデニムという、動きやすさ重視のラフな格好をした優愛だった。

髪は無造作にお団子にまとめられ、手には湯気を立てる鍋とお玉を持っている。


「……優愛さん、その装備は?」

「特効薬だよ。昨日の夜、お母さんが作りすぎちゃった豚汁。溢喜の好きなやつ」


ふわりと、味噌と出汁の香りが部屋に漂う。

その瞬間、僕の胃袋が「ぐうぅ」と情けない音を立てて反応した。

二度寝の誘惑は、一瞬にして食欲に敗北した。


「顔洗っておいで。下でご飯の準備するから」

「……はい。直ちに行動します」


優愛の笑顔と味噌の香りに釣られ、僕は洗面所へと向かった。

冷たい水で顔を洗いながら、鏡の中の自分に向かって呟く。

「自由」な休日は消えたけど、もっといい休日が始まったな、と。

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