表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
141/181

第百四十一話 僕らの、秘密の寄り道

「僕らの旅は、まだ、終わってない」


そう言って、僕が彼女の手を強く握ると、優愛は、驚いたように目を丸くして、そして、次の瞬間、ぱあっと、花が咲くように笑った。

「……うん!」


僕らは、顔を見合わせたまま、どちらからともなく、走り出した。

まるで、旅の終わりという現実から、逃げるように。

駅へと向かう人の波とは逆の方向へ。

ただ、気の向くままに。


僕らがたどり着いたのは、港の近くにある、海沿いの公園だった。

昼間の賑わいはなく、オレンジ色の夕日が、静かな公園を、優しく照らしている。

僕らは、息を切らせながら、海が一番よく見える、ベンチに、並んで腰を下ろした。


「はぁ……、疲れた……」

「……溢喜が、急に、走るから」

「……優愛だって、楽しそうだったろ」


言い合いながら、笑い合う。

その、子供みたいなやり取りが、たまらなく、心地よかった。


しばらく、僕らは、何も話さなかった。

ただ、遠くで聞こえる船の汽笛と、穏やかな波の音だけが、僕らの間を流れていく。

目の前の海が、ゆっくりと、夕焼けの色に染まっていく。


「……綺麗だね」

優愛が、ぽつりと呟いた。

「ああ……」


僕は、その、あまりにも美しい光景から、目が離せなかった。

夕日に照らされた、彼女の横顔。

その瞳に映る、オレンジ色の、きらきらとした光。

一週間、ずっと隣で見てきたはずなのに。

今、この瞬間の彼女が、今までで一番、綺麗だと思った。


「……なあ、優愛」

「ん?」

「……帰りたくないな」


今度は、僕の方から、だった。

その、あまりにも素直な言葉に、優愛は、驚いたように僕の顔を見た。

そして、嬉しそうに、でも、少しだけ寂しそうに、微笑んだ。


「……うん。私も」


そして、彼女は、そっと、僕の肩に、頭を預けてきた。

肩にかかる、愛おしい重み。

シャンプーの甘い香りが、僕の心を、優しく満たしていく。


「……でも、帰らないとね」

「……ああ」

「また、明日から、いつもの毎日が、始まるね」

「……そうだな」


でも、もう、それは、少しも嫌じゃなかった。

だって、その「いつもの毎日」には、もう、君が、僕の彼女として、隣にいてくれるのだから。

僕らの、長いようで、短かった特別な旅は、こうして、静かに、その幕を下ろそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ