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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百四十話 また会うための、約束

時計の針が、昼を指す。

僕らの船は、ゆっくりと、でも確実に、見慣れた港へと近づいていた。

窓の外には、僕らが一週間前に見たのと同じ、でも、今は全く違う意味を持って見える、僕らの街の景色が広がっている。


「……行こっか」

「うん」


僕らは、繋いだ手を離し、最後の荷物を持って、部屋を出た。

船内は、下船の準備をする乗客たちの、少しだけ慌ただしい空気と、旅の終わりを惜しむ、名残惜しい雰囲気で、満ちていた。


タラップへと向かう、長い列。

僕らがそこに並んでいると、前から、聞き覚えのある、明るい声がした。

「よう、お二人さん。いい顔してるじゃないか」

瀧川先輩と、その隣で優しく微笑む、杏奈先輩だった。


「先輩!」

「お疲れ様です」


「お前らこそ。……どうだったよ、初めての旅行は」

瀧川先輩が、ニヤリと、悪戯っぽく笑う。

僕と優愛は、どちらからともなく顔を見合わせ、そして、はにかみながら、同時に頷いた。


「……最高、でした」

僕がそう言うと、杏奈先輩が「よかったね」と、自分のことのように、嬉しそうに笑ってくれた。


やがて、列が進み、僕らは、タラップを降りる。

一週間ぶりに踏む、固い地面の感触。

旅が、本当に、終わってしまったんだ。

じわりと、寂しさが、胸に広がる。


「じゃあ、俺たちは、ここで」

港のターミナルで、瀧川先輩と杏奈先輩が、僕らに、ひらひらと手を振った。

「色々、ありがとうございました!」

「また、学校で、話、聞かせてね」

杏奈先輩が、僕らにだけ聞こえるように、そう言って、ウインクをした。


「……はい!」

優愛が、元気よく、でも、少しだけ寂しそうに、そう返す。


先輩カップルは、迎えに来ていたらしい、一台の車に乗り込み、去っていった。

残されたのは、僕と優愛の二人だけ。

僕らは、どちらも、何も言わずに、ただ、遠ざかっていく車のテールランプを、見つめていた。


「……行っちゃったね」

「ああ」


僕らの間を、少しだけ、気まずい沈黙が流れる。

先輩たちがいた時の、賑やかな空気がなくなり、旅の終わりという現実が、急に、重くのしかかってきたようだった。

このまま、僕らの、この特別な時間も、終わってしまうんだろうか。


そう、思った、その時だった。

「……ねえ、溢喜」

優愛が、僕のシャツの裾を、きゅっと、掴んだ。


「ん?」

「……まだ、帰りたくない」


その、あまりにも素直で、あまりにも愛おしい、わがまま。

僕は、もう、どうしようもなくなって、吹き出してしまった。


「ははっ、なんだよ、それ」

「だ、だって……!」


顔を真っ赤にして、僕を見上げてくる、彼女。

そうだ。

僕も、同じ気持ちだ。


僕は、彼女の、シャツの裾を掴んでいた手を、そっと、取り、指を絡めて、強く、握った。

そして、最高の笑顔で、こう言った。


「当たり前だろ。……僕らの旅は、まだ、終わってない」


僕らの、忘れられない一週間の旅。

その、本当に、本当に、最後の時間は。

まだ、もう少しだけ、続きそうだった。

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