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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百三十七話 眠れない夜は、君の膝の上で

どれくらいの時間が、経っただろうか。

僕らの、甘くて、少しだけ切ないくらいに愛おしい時間が、終わった後。

僕らは、一つのベッドの中で、どちらも、言葉を発することができなかった。


窓の外は、静かな、夜の海。

部屋の中には、僕と優愛の、少しだけ速くなった、呼吸の音だけが、響いている。


(……眠れない)


当たり前だ。

こんな、心臓が爆発しそうな出来事の後で、すぐに眠れるはずがない。

隣を見ると、優愛も、僕と同じように、天井を、じっと見つめていた。

その頬は、まだ、ほんのりと、赤く染まっている。


「……溢喜」

「……ん」

「……眠れないの?」

「……優愛も、だろ」


僕らは、顔を見合わせて、どちらからともなく、吹き出してしまった。

その笑い声が、少しだけ、部屋の緊張を、和らげてくれる。


「……どうしようか」

「……そうだね」


僕らが、そう言って、また黙り込んでしまった、その時だった。

優愛が、何かを思いついたように、体を起こした。

そして、自分のバッグの中から、小さな、可愛らしいポーチを取り出す。


「……耳、かゆくない?」

「え……?」


僕が、きょとんとしていると、彼女は、ポーチの中から、一本の、梵天がついた耳かきを取り出した。

そして、僕の顔を見て、にこりと、悪戯っぽく、でも、どうしようもなく優しく、微笑んだ。


「……しょうがないなあ。私が、してあげる」


その、あまりにも不意打ちで、あまりにも破壊力のある提案に。

僕の思考は、またしても、完全にフリーズした。


「え、い、いや、でも……!」

「いいから。ほら、こっち、おいで」


そう言って、彼女は、ベッドの上で、あぐらをかき、自分の膝を、ぽんぽん、と叩いた。

もう、僕に、拒否権はなかった。


(というか、なんで耳かき持ってきてるんだよ)


僕は、恐る恐る、ぎこちない動きで、彼女の、柔らかくて、温かい膝の上に、頭を乗せた。

至近距離に、彼女の顔。

シャンプーの、甘い香りが、僕の全身を、包み込む。


「……じゃあ、いくよ? ……動かないでね」


か細い、でも、真剣な声。

金属の、ひんやりとした感触が、僕の耳に、そっと、触れた。


「……っ」


全身に、ぞくぞく、と、甘い痺れのようなものが、走り抜ける。

気持ちいいとか、そういうレベルじゃない。

これは、もはや、拷問に近い。


「……どう? 痛くない?」

「……だ、大丈夫」


僕の、うわずった声。

それを見た彼女は、「ふふっ」と、楽しそうに、喉の奥で笑った。

完全に、僕の方が、彼女の手のひらの上で、転がされている。


でも、その、くすぐったくて、どうしようもないくらい心地いい感触に。

僕の、高ぶり続けていた興奮が、ゆっくり、ゆっくりと、穏やかな眠気へと、変わっていくのが、分かった。

ああ、もう、ダメだ。

このまま、眠ってしまいそうだ。


僕らの、忘れられないクリスマスの夜。

それは、世界で一番、甘くて、そして、世界で一番、心地いい、君の膝の上で、終わりを告げようとしていた。

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