第百三十三話 二人だけの、映写会
「四人で、また、どこか行きたいな。お土産、渡しながら」
優愛のその言葉に、僕も「ああ」と力強く頷いた。
この旅が終わっても、僕らの日常には、新しい楽しみが、また一つ増える。
そう思うだけで、胸が温かくなった。
その日の午後は、部屋に戻って、二人でゆっくりと過ごすことにした。
豪華な船内を探検するのも楽しいけれど、こうして、誰にも邪魔されない、二人きりの空間で過ごす時間も、同じくらい、特別で、幸せな時間だ。
「……なんか、すごい枚数、撮ったね」
優愛が、カメラの液晶画面をスクロールしながら、くすくすと笑う。
僕らは、ベッドの上に並んで腰を下ろし、クッションを背も-たれにして、この旅で撮りためた写真を、一枚一枚、見返していた。
出航の日の、少しだけ緊張した顔の僕ら。
プールサイドで、無様に尻もちをついた、僕の情けない姿。
サンドアート教室で、ヤキモチを焼いて、拗ねている、優愛の可愛い横顔。
そして、仮面舞踏会で、ぎこちなくワルツを踊る、ドレスアップした僕ら。
「……ふふっ、この溢喜、顔、真っ赤」
「うるさいな! 優愛だって、人のこと言えないだろ!」
言い合いながら、笑い合う。
一枚一枚の写真に、その時の、甘くて、少しだけ切ない気持ちが、鮮やかに蘇る。
僕らの、たった数日間の物語が、そこに、ぎゅっと、詰まっていた。
「……あ」
ふと、優愛が、一枚の写真の前で、指を止めた。
それは、昨夜、僕が彼女にプレゼントした、星の砂のネックレスをつけて、嬉しそうにはにかむ、彼女の写真だった。
「……これ、いつの間に、撮ったの?」
「ん? ああ、朝、レストランに行く前。あんまり綺麗だったから、つい」
僕の、あまりにも素直な言葉。
優愛は、何も言わずに、でも、どうしようもなく嬉しそうに、僕の肩に、こてん、と、頭を預けてきた。
肩にかかる、愛おしい重み。
シャンプーの甘い香りが、僕の心を、優しく満たしていく。
僕らは、そのまま、しばらく、黙っていた。
ただ、写真を見返すでもなく、窓の外の、きらきらと輝く海を、ぼーっと、眺めていた。
言葉はなくても、分かる。
僕らは、今、全く同じ、幸せな気持ちで、満たされている。
「……なあ、優愛」
「ん?」
「この写真……。現像したら、一枚、くれないか?」
「え……?」
「部屋に、飾りたいなって。……だめか?」
僕の、不器用な、でも、精一杯の「おねだり」。
優愛は、僕の肩から顔を上げると、僕の顔を、じっと、見つめてきた。
そして、最高の笑顔で、こう言った。
「……うん。いいよ。その代わり、溢喜の写真も、一枚、私にちょうだいね」
その、可愛すぎる「交換条件」。
僕はもう、頷くことしか、できなかった。
僕らの、忘れられないクリスマスの日は、未来への、新しい約束と、宝物が、また一つ、増えた、最高に幸せな一日になった。




