第百三十二話 君と歩く、光の中
賑やかで、幸せな朝食の後。
瀧川先輩と杏奈先輩は、「これから、二人でゆっくり映画でも見る」と言って、僕らにウインクを残し、去っていった。
「僕らは、どうする?」
「んー……。もう、お土産は買ったしね」
「そうだな」
僕らは、特に計画を立てるでもなく、ただ、気の向くままに、船内を散策することにした。
クリスマス一色に飾られた船内は、どこを歩いても、楽しそうな乗客たちの笑顔で溢れている。
僕らも、自然と、手を繋いでいた。
僕らが、自然と足を向けたのは、船の最上階にある、ガラス張りの展望ラウンジだった。
昼間のラウンジは人も少なく、静かで、落ち着いた音楽が流れている。
僕らは、大きな窓の前に置かれた、ふかふかのソファに、並んで腰を下ろした。
目の前には、どこまでも続く、青い空と、青い海。
太陽の光が、きらきらと、海面に反射している。
「……すごいね」
「ああ……」
僕らは、しばらく、その美しい光景を、黙って見つめていた。
言葉は、いらない。
ただ、君が隣にいて、同じ景色を見ている。
それだけで、僕の心は、どうしようもないくらいの幸福感で、満たされていった。
「……ねえ、溢喜」
不意に、優愛が、僕の肩に、こてん、と頭を預けてきた。
「ん?」
「……幸せだね」
その、あまりにもストレートで、あまりにも素直な言葉。
僕は、照れくさくて、何も言い返せなかった。
ただ、繋いでいた彼女の手に、きゅっと、少しだけ、力を込めた。
どれくらいの時間が、経っただろうか。
僕らは、そのまま、互いの温もりを感じながら、穏やかな時間を過ごしていた。
ふと、優愛が、何かを思い出したように、顔を上げた。
「そういえば、さっき、美褒からメッセージが来てたんだ」
「美褒から?」
「うん。『クリスマスパーティー、楽しんでる?』だって。それと、『お土産、よろしくね!』って」
親友からの、いつも通りのメッセージ。
それに、僕らは、どちらからともなく、吹き出してしまった。
「あいつら、元気にしてるかな」
「きっと、希望くんと、二人でどこかに出かけてるんじゃない?」
「ああ、ありえるな。で、希望が、また何かやらかして、美褒に呆れられてる、と」
「ふふっ、目に浮かぶね」
僕らの、大切な、もう二人の仲間。
彼らがいてくれたから、僕らは、今、こうして、ここにいる。
「……帰ったら、ちゃんとお礼、言わないとな」
僕が、ぽつりと呟いた。
「うん。そうだね。四人で、また、どこか行きたいな。お土産、渡しながら」
優愛の、その言葉が、僕の胸を、温かくした。
この旅が終わっても、僕らの日常は、ちゃんと、あそこで待っていてくれる。
そして、その日常は、もう、以前とは比べ物にならないくらい、輝かしいものになっているんだ。
僕らの、忘れられないクリスマスの日。
それは、未来への、新しい約束と、温かい希望に満ちた、光のような時間だった。
時計の針は、もうすぐ、昼を指そうとしていた。




