表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
130/181

第百三十話 君の髪と、僕の指

忘れられないクリスマスイブから一夜明け、旅行六日目。

十二月二十五日、クリスマスの朝は、雲一つない、完璧な快晴だった。


僕が目を覚ますと、隣で眠っていたはずの、優愛の姿がなかった。

(……あれ?)

ベッドの上に残された、彼女の温もりと、甘い香り。

僕が、少しだけ寂しい気持ちで体を起こすと、バスルームの方から、シャワーの音が聞こえてきた。


(……そっか)


僕は、ベッドの上で、昨夜の出来事を、もう一度、反芻する。

プレゼント交換、デッキでのキス、そして、部屋に戻ってからの、甘い時間。

その一つ一つを思い出すだけで、どうしようもなく、顔が熱くなる。


ガチャリ、と、バスルームのドアが開いた。

出てきたのは、少しだけ頬を上気させた、バスローブ姿の優愛だった。

濡れた髪から、ぽたぽたと、雫が滴り落ちている。


「あ……。おはよう、溢喜」

「お、はよう……」


その、あまりにも無防-備で、あまりにも美しい姿に、僕の心臓は、朝から、フルスロットルで鳴り響いていた。


「……髪、乾かさないと、風邪ひくぞ」

僕は、しどろもどろになりながらも、なんとか、それだけを絞り出した。

すると、彼女は「うん、そうだね」と、はにかんだ。

「……ドライヤー、取ってくれる?」


「お、おう」

僕は、洗面台に置かれていたドライヤーを手に取り、彼女に渡そうとする。

すると、優愛は、それを受け取らずに、ドレッサーの前にちょこんと座った。

そして、鏡越しに、僕の顔を見て、こう言った。


「……乾かして、くれる?」


その、あまりにも不意打ちで、あまりにも甘い「おねだり」。

僕の思考は、一瞬、完全にフリーズした。


「え……。い、いや、でも、僕、やったことないし……」

「……だめ?」


不安そうに、潤んだ瞳で、僕を見上げてくる彼女。

そんな顔で、そんなことを言われたら、断れるはずがなかった。


「……分かったよ」

僕は、観念して、彼女の後ろに立った。

ドライヤーのスイッチを入れると、温かい風が、ごう、と音を立てる。

僕は、恐る恐る、その風を、彼女の濡れた髪に当てた。


そして、空いている方の左手で、そっと、彼女の髪に、指を通す。

シルクみたいに、滑らかで、柔らかい感触。

指先に絡みつく、甘いシャンプーの香り。

ドライヤーの熱よりも、ずっと熱い何かが、僕の体中を、駆け巡った。


(……やばい。心臓、もたない)


鏡の中の僕の顔は、きっと、耳まで真っ赤だ。

でも、鏡の中の彼女は、僕の不器用な手つきを、心の底から、愛おしそうに、幸せそうに、見つめていた。

その表情に、僕は、もっと、どうしていいか、分からなくなる。


「……ありがとう、溢喜。すごく、上手」

「……そうか?」

「うん。……世界で一番、優しい手」


その、とどめの一言に、僕はもう、何も答えられなかった。

ただ、彼女の髪を乾かす、その、単純な作業が。

世界で一番、特別で、幸せな時間のように、感じられた。


僕らの、忘れられないクリスマスの日は、こうして、今までで一番、甘くて、どうにかなりそうな朝を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ