第百二十九話 星空の下の、誓いのキス
僕らは、示し合わせたわけでもないのに、同じ「星空」というモチーフを選んでいた。
その、奇跡みたいな事実に、僕らはもう、たまらなくなって、どちらからともなく、顔を近づけた。
唇が、触れ合う、ほんの数センチ手前。
一度、経験したはずなのに。いや、一度、経験したからこそ、僕の心臓は、今にも張り裂けそうなくらい、激しく脈打っていた。
僕は、意を決して、その最後の数センチを、埋めた。
クリスマスイブの、星空の下で交わすキスは、今までで一番、長くて、甘かった。
どれくらいの時間が、経っただろうか。
名残惜しそうに、ゆっくりと唇を離すと、目の前には、顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で、僕をじっと見つめている、優愛がいた。
「……部屋、戻ろっか」
「……うん」
僕らは、そっと、手を繋いだ。
そして、どちらも、何も言わずに、自分たちの部屋へと、戻っていく。
ラウンジから流れてくる、楽しそうなクリスマスソング。
すれ違う、幸せそうなカップルたち。
その全てが、僕らの、特別な夜を、祝福してくれているようだった。
部屋に戻り、ドアを閉めた瞬間。
優愛が、僕の胸に、こてん、と、額を預けてきた。
「……どうした?」
「……ううん」
彼女は、顔を上げないまま、くぐもった声で、言った。
「……なんか、夢みたいで。……終わってほしくないなって」
その、あまりにも健気で、あまりにも愛おしい言葉に、僕は、もう、どうしようもなくなって、彼女の華奢な体を、強く、強く、抱きしめた。
「終わらないよ」
僕は、彼女の耳元で、囁いた。
「この旅が終わっても、僕らの時間は、ずっと、続いていく。これからも、ずっと、だ」
僕の言葉に、彼女は、顔を上げて、僕の顔を、じっと、見つめてきた。
その瞳から、ぽろり、と、一粒の涙が、こぼれ落ちる。
でも、それは、悲しい涙じゃなかった。
「……うん」
最高の笑顔で、そう言って、頷いてくれる、彼女。
僕は、そっと、その涙を、指で拭う。
そして、どちらからともなく、もう一度、僕らの唇は、自然と、重なり合っていた。
僕らの、忘れられないクリスマスイブの夜は、こうして、優しく、そして、どこまでも甘く、更けていった。




