第百二十八話 君に贈る、星の雫
「当たり前でしょ」
最高の笑顔で、そう言ってくれた、優愛。
その言葉の温かい余韻に包まれたまま、僕らは、レストランを後にした。
「……少し、風に当たらないか?」
「うん」
僕らは、少しだけドレスアップしたまま、もう一度、夜のデッキへと向かう。
ひんやりとした潮風が、心地いい。
見上げれば、満点の星空。
手すりに寄りかかり、二人で、静かに星空を眺める。
やがて、どちらからともなく、僕らは顔を見合わせた。
あの日、僕らが交わした、甘い約束。
いよいよ、その時が、来た。
「……じゃあ、約束通り」
僕が、少しだけ緊張した声でそう言うと、優愛も「うん」と、こくりと頷いた。
その頬は、期待と、緊張で、ほんのり赤く染まっている。
僕が、ジャケットの内ポケットに忍ばせていた小さな箱を取り出すのと、彼女が、大切そうに持っていた小さな紙袋を僕に見せるのは、全く、同じタイミングだった。
僕らは、顔を見合わせて、どちらからともなく、吹き出してしまう。
「「どうぞ」」
僕が彼女に渡した、ベルベットの小箱。
彼女が僕に渡してくれた、綺麗なラッピングの平たい箱。
「「開けてみて」」
また、声が重なった。
僕が、リボンを解き、箱を開けると。
中に入っていたのは、深い、夜空みたいなネイビーの、革のパスケースだった。
光の当たり方によって、キラキラと、まるで星が瞬いているみたいに、細かなラメが輝いている。
「……すごい」
僕が、言葉を失っている間に、優愛も、僕が渡した箱を、そっと開けていた。
「……あ」
彼女の、小さな吐息が、静かな夜の海に響く。
箱の中には、あの日、南国の島で、僕が見つけた、星の砂のネックレス。
「これ……!」
彼女は、驚きと、喜びで、言葉にならないようだった。
ただ、その大きな瞳から、ぽろりと、涙がこぼれ落ちる。
そして、振り返った彼女は、僕の胸に、飛び込んできた。
「……ありがと。すごく、嬉しい……!」
僕の胸に顔をうずめ、くぐもった声で、でも、心の底から嬉しそうな声で、彼女が言う。
僕は、そんな彼女の華奢な体を、優しく、抱きしめた。
「僕の方こそ。……最高の、プレゼントを、ありがとう」
しばらくして、体を離した優愛が、少しだけはにかみながら、言った。
「……つけて、くれる?」
僕は「うん」と頷くと、ネックレスを手に取り、彼女の後ろに回り込んだ。
その、白くて、細い首筋に、そっと、チェーンを回す。
ひんやりとした金属の感触と、僕の指先が、彼女の肌に、そっと、触れた。
優愛の肩が、びくりと小さく震えた。
「……できた」
僕がそう言うと、彼女は、自分の胸元でキラリと輝く、小さな星の雫と、僕が手にしているパスケースを、交互に見て、そして、驚いたように、嬉しそうに、こう言った。
「……すごい! 星空で、おんなじだ!」
「……本当だ」
僕らは、示し合わせたわけでもないのに、同じ「星空」というモチーフを選んでいた。
その、奇跡みたいな事実に、僕らはもう、たまらなくなって、どちらからともなく、顔を近づけた。
僕らの、忘れられないクリスマスイブは、お互いの想いを、最高の形で交換し合った、世界で一番、甘くて、幸せな夜になった。




