表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
126/198

第百二十六話 世界に一つだけの、僕らのケーキ

「……ばか! へんたい! 溢喜の、いじわる……!」


顔を真っ赤にして、僕の胸をぽかぽかと叩き続ける優愛。

その、あまりにも可愛すぎる反応に、僕の優越感は、最高潮に達していた。

完全に、僕の勝ちだ。


「はいはい、分かったから。ほら、続き、やらないと、本当に完成しないぞ?」

僕がそう言って、彼女の手をそっと握ると、優愛は、はっとしたように動きを止め、こくりと頷いた。

その耳まで、真っ赤に染まっている。


そこからは、僕らは、お互いを意識しすぎて、まともに会話もできなかった。

ただ黙々と、イチゴを並べたり、チョコペンで文字を書いたり。

時々、指先が触れ合っては、二人して、びくりと肩を揺らす。

その、ぎこちない空気すら、今は、たまらなく愛おしかった。


「「……できた」」


やがて、僕らの声が、綺麗に重なった。

テーブルの上には、僕らが、力を合わせて作り上げた、世界に一つだけの、クリスマスケーキが、完成していた。

形は、少しだけ歪かもしれない。

でも、僕らの、たくさんの「初めて」が詰まった、かけがえのない宝物だ。


「すごいね、溢喜」

「ああ。すごいな」

僕らは、自分たちの作品を前に、子供みたいに、目を輝かせていた。


午後は、部屋に戻って、二人でゆっくりと過ごすことにした。

僕らが作った、特別なケーキを、二人で切り分けて食べる。


「……美味しいね」

「ああ。世界で一番、うまい」

僕がそう言うと、彼女は「ふふっ」と、最高の笑顔で、頷いた。


ケーキを食べ終え、少しだけ眠くなってきた僕らは、ベッドの上に並んで腰を下ろし、クッションを背もたれにして、何をするでもなく、窓の外の景色を眺めていた。

雨は、いつの間にか上がっている。

雲の切れ間から、午後の、柔らかな日差しが差し込んできていた。


「……なあ、優愛」

「ん?」

「なんかさ、こうしてると、本当に、夫婦みたいだな」


僕の、不意打ちの一言。

優愛は、一瞬きょとんとした後、すぐにその意味を察したようだった。

みるみるうちに、彼女の頬が、夕焼けのように、赤く染まっていく。


「……ばか」

か細い、でも、どうしようもなく嬉しそうな声。

そして、彼女は、僕の肩に、こてん、と、優しく頭を預けてきた。


肩にかかる、愛おしい重み。

シャンプーの甘い香りが、僕の心を、優しく満たしていく。

僕は、そっと、彼女の肩を、抱き寄せた。


「……疲れた?」

「……うん、少しだけ」

「寝てて、いいぞ」

「……やだ。寝たら、この時間が、終わっちゃう」


その、あまりにも健気で、あまりにも可愛い言葉に、僕はもう、何も言えなかった。

ただ、抱きしめる腕に、少しだけ、力を込める。

僕らの心臓の音が、静かな部屋の中で、一つに重なっていくのが、分かった。

この時間が、永遠に続けばいいのに。

僕らは、どちらも、心の底から、そう願っていた。

僕らの、忘れられないクリスマスイブは、まだ、半分も終わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ