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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百二十五話 甘いクリームと、君の指先

「――では、皆さん、準備はよろしいでしょうか? レッツ・クッキング!」


パティシエ姿の、陽気なインストラクターの声。

その声で、僕と優愛は、はっと我に返った。

僕らは、どちらからともなく、顔を見合わせたまま、こくりと頷き合うと、それぞれの調理台に向き直った。


今日の課題は、イチゴのショートケーキ。

スポンジはすでに用意されていて、僕らがやるのは、生クリームを泡立てて、デコレーションをする、という一番楽しい部分だけらしい。


「まずは、このボウルに入った生クリームを、泡立てていきます! 飛び散らないように、気をつけてくださいね!」


僕は、ハンドミキサーのスイッチを入れる。

ウィィィン、と軽快な音がして、クリームがゆっくりと混ざり始めた。

(……なんだ、簡単じゃないか)


そう思った、次の瞬間だった。

僕が、少しだけボウルを傾けすぎたのか、白いクリームが、ぴしゃり、と、僕の顔に飛び散った。


「ぶっ……!」

「あははは! ちょっと、溢喜、何やってるの!」


隣で、優愛が、お腹を抱えて笑い転げている。

その、あまりにも楽しそうな笑顔に、僕の、少しだけ恥ずかしかった気持ちも、どこかへ吹き飛んでしまった。


「……笑いすぎだろ」

「だ、だって……ふふっ、顔、すごいことになってるよ」


僕が、自分の頬についたクリームを、指で拭おうとすると。

「あ、待って」

優愛が、僕の手を、そっと、止めた。


そして、彼女は、自分の指で、僕の頬のクリームを、すくい取る。

その、ひんやりとした、柔らかな感触に、僕の心臓が、また、大きく跳ねた。


「……」

「……」


至近距離で、見つめ合う、僕ら。

周りの喧騒が、また、遠くに聞こえる。

彼女の、大きな瞳に、僕の、間抜けな顔が、映っていた。


「……ん」

優愛は、僕の頬からすくい取ったクリームを、こともなげに、ぺろり、と、自分の口に運んだ。

そして、悪戯っぽく、にこりと、微笑んだ。


「……うん。甘くて、おいしい」


その、あまりにも不意打ちで、あまりにも大胆で、そして、あまりにも可愛いすぎる行動に。

僕の思考は、完全に、フリーズした。

顔が、熱い。

心臓が、うるさい。


(……ああ、もう、ダメだ)


僕は、もう、何も考えられなかった。

気づけば、僕は、自分の指で、今度は、優愛の唇の端についていた、小さな、小さなクリームのかけらを、すくい取っていた。

そして、彼女が、僕にしたのと、全く同じように。

その指を、自分の口へと、運んでいた。


「……!」

今度は、優愛が、息を呑んで、固まる番だった。


「……ほんとだ。甘くて、おいしいな」


僕が、精一杯、平静を装って、にやりと笑って見せると。

彼女は、顔を真っ赤にして、僕の胸を、ぽかぽかと、何度も、叩いた。

「……ばか! へんたい! 溢喜の、いじわる……!」


その、涙目になりながら、本気で照れている姿が、たまらなく愛おしくて。

僕はもう、どうしようもないくらいの幸福感で、胸がいっぱいだった。

僕らの、初めてのクリスマスケーキ作りは、どうやら、ケーキが完成するよりも先に、お互いの、甘いクリームの味を確かめ合う、最高の時間になってしまったようだった。

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