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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百二十四話 君のエプロンと、僕の心臓

僕らの、旅行五日目の朝。

十二月二十四日、クリスマスイブは、僕の腕の中で眠る、世界で一番愛おしい寝顔と共に、幕を開けた。


「……おはよう、溢喜」

「おはよ、優愛」


どちらからともなく、そう言って、笑い合う。

もう、昨日までの、少しだけ気恥ずかしい空気はない。

ただ、どうしようもなく幸せで、満ち足りた時間が、僕らの間を流れていた。


「……お腹、すいたね」

「ああ」


僕が、名残惜しそうに、彼女を抱きしめる腕を緩めると、優愛は、するりとベッドから抜け出した。

そして、クローゼットから着替えを取り出すと、僕に背を向けて、少しだけ、もじもじとしている。


(……あ、そっか)


僕は、慌ててベッドに潜り込み、顔まで布団をかぶった。

「……見てない!見てないから!」

僕の、あまりにも子供っぽい反応に、布団の向こう側から、優愛の、くすくす、と楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


朝食を終えた後、僕らは、船内がクリスマスの特別な飾り付けで彩られているのに気づいた。

あちこちに、クリスマスツリーや、きらびやかなイルミネーションが飾られている。


「すごい……!」

「本当だ……」


その日の午前中、僕らは、船内のキッチンスタジオで開かれていた、「クリスマスケーキ作り体験」に参加することにした。

スタジオに入ると、甘い香りと、楽しそうな参加者たちの声で溢れていた。

僕らも、それぞれ、白いエプロンを受け取る。


「うわ、これ、どうやって結ぶんだ……?」

僕が、背中に回したエプロンの紐と格闘していると、隣から、優愛の、呆れたような、でも楽しそうな声がした。

「もう、しょうがないなあ。……じっとしてて」


優愛が、僕の後ろに回り込む。

そして、その小さな手が、僕の腰のあたりで、エプロンの紐を結んでくれる。


……近い。

背中に、彼女の柔らかな感触と、温かい吐息。

そして、ふわりと香る、甘いシャンプーの匂い。


僕の心臓が、大きく、ドクン、と鳴った。

「……よし、できた」

「あ、ありがと……」

僕の声が、自分でも驚くくらい、うわずっていた。


「どういたしまして」

そう言って、僕の前に回り込んできた彼女の顔は、ほんのり、赤く染まっている。

僕の、あまりにも分かりやすい反応に、気づいてしまったんだろう。


(……だめだ。完全に、ペースを握られてる)


僕らは、顔を見合わせたまま、どちらも、何も言えずに、固まってしまった。

周りの喧騒も、何も聞こえない。

ただ、僕らの、速くなった心臓の音だけが、やけに大きく、響いていた。

僕らの、忘れられないクリスマスイブは、どうやら、波乱万丈な幕開けとなったようだった。

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