表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
120/182

第百二十話 君と刻む、ハイスコア

「……じゃあ、次、行こっか」

「うん!」


僕らは、ゲームセンターの、さらに奥へと進んだ。

次に僕らの足を止めたのは、少しだけ懐かしい、対戦型の格闘ゲームだった。


「うわ、これ、まだあるんだ。昔、希望とよくやったな」

「へえ、溢喜、こういうのもやるんだ」

「まあな。……一回、やってみないか? 優愛」


僕の誘いに、彼女は「えー、私、やったことないよ?」と、少しだけ、戸惑ったような顔をした。

「大丈夫だって。俺が、ちゃんと教えてやるから」

僕は、さっきのUFOキャッチャーの雪辱を果たすかのように、少しだけ得意げに、そう言って笑った。


隣り合った椅子に座り、コインを入れる。

色とりどりのキャラクターが並ぶ画面で、僕は、自分が昔よく使っていた、素早い動きの忍者キャラクターを選んだ。

優愛は、迷った末に、「この子、可愛いから」という理由だけで、ピンク色の髪をした、魔法使いの女の子を選んでいた。


「いいか、このボタンがパンチで、こっちがキック。で、レバーをこうやって回して、ボタンを押すと……」


僕が、技の出し方を説明していると、優愛は、僕の顔と、自分の手元を、真剣な顔で、何度も見比べている。

その、一生懸命な横顔が、たまらなく可愛い。


「……よし、大体わかった!」

「ほんとか? じゃあ、いくぞ!」


対戦が始まる。

最初は、僕が圧倒的に優勢だった。

操作に慣れない優愛のキャラクターを、僕は、コンボを決めて、追い詰めていく。


「わ、わ! ちょっと待って!」

「ははっ、容赦しないぜ!」


でも、数ラウンドをこなすうちに、状況は、少しずつ、変わっていった。

優愛は、僕の動きを、驚くべき速さで学習していく。

僕が攻撃を仕掛けようとすると、絶妙なタイミングでガードを固め、隙を見ては、的確に反撃を入れてくるようになったのだ。


(……嘘だろ。こいつ、センス、ありすぎじゃないか?)


そして、運命の、最終ラウンド。

お互いの体力ゲージは、残りわずか。

一発でも攻撃を食らえば、終わる。

画面の中の僕らのキャラクターと同じように、僕と優愛の間にも、ピリピリとした緊張感が、走っていた。


僕が、最後の大技を決めようと、一瞬、隙を見せた、その時だった。

優愛の、ピンク色の髪のキャラクターが、小さな呪文を唱える。

画面いっぱいに、キラキラとした星が降り注いだ。


KO!


僕のキャラクターが、派手に吹っ飛んでいく。


「……」

僕は、呆然と、画面を見つめていた。

負けた。

本気でやって、負けた。


「……やった!」

隣で、優愛が、子供みたいに、小さなガッツポーズをしている。

そして、僕の方を見て、最高の、そして、少しだけ、誇らしげな笑顔で、こう言った。


「私の、勝ちだね。溢喜」


その、あまりにも眩しい笑顔。

僕は、もう、何も言えなかった。

悔しい。すごく、悔しい。

でも、それ以上に。

彼女と、こんな風に、本気で競い合える時間が、どうしようもなく、幸せだった。


僕らの、ゲームセンターでの時間は、まだ、もう少しだけ、続きそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ