第百二十話 君と刻む、ハイスコア
「……じゃあ、次、行こっか」
「うん!」
僕らは、ゲームセンターの、さらに奥へと進んだ。
次に僕らの足を止めたのは、少しだけ懐かしい、対戦型の格闘ゲームだった。
「うわ、これ、まだあるんだ。昔、希望とよくやったな」
「へえ、溢喜、こういうのもやるんだ」
「まあな。……一回、やってみないか? 優愛」
僕の誘いに、彼女は「えー、私、やったことないよ?」と、少しだけ、戸惑ったような顔をした。
「大丈夫だって。俺が、ちゃんと教えてやるから」
僕は、さっきのUFOキャッチャーの雪辱を果たすかのように、少しだけ得意げに、そう言って笑った。
隣り合った椅子に座り、コインを入れる。
色とりどりのキャラクターが並ぶ画面で、僕は、自分が昔よく使っていた、素早い動きの忍者キャラクターを選んだ。
優愛は、迷った末に、「この子、可愛いから」という理由だけで、ピンク色の髪をした、魔法使いの女の子を選んでいた。
「いいか、このボタンがパンチで、こっちがキック。で、レバーをこうやって回して、ボタンを押すと……」
僕が、技の出し方を説明していると、優愛は、僕の顔と、自分の手元を、真剣な顔で、何度も見比べている。
その、一生懸命な横顔が、たまらなく可愛い。
「……よし、大体わかった!」
「ほんとか? じゃあ、いくぞ!」
対戦が始まる。
最初は、僕が圧倒的に優勢だった。
操作に慣れない優愛のキャラクターを、僕は、コンボを決めて、追い詰めていく。
「わ、わ! ちょっと待って!」
「ははっ、容赦しないぜ!」
でも、数ラウンドをこなすうちに、状況は、少しずつ、変わっていった。
優愛は、僕の動きを、驚くべき速さで学習していく。
僕が攻撃を仕掛けようとすると、絶妙なタイミングでガードを固め、隙を見ては、的確に反撃を入れてくるようになったのだ。
(……嘘だろ。こいつ、センス、ありすぎじゃないか?)
そして、運命の、最終ラウンド。
お互いの体力ゲージは、残りわずか。
一発でも攻撃を食らえば、終わる。
画面の中の僕らのキャラクターと同じように、僕と優愛の間にも、ピリピリとした緊張感が、走っていた。
僕が、最後の大技を決めようと、一瞬、隙を見せた、その時だった。
優愛の、ピンク色の髪のキャラクターが、小さな呪文を唱える。
画面いっぱいに、キラキラとした星が降り注いだ。
KO!
僕のキャラクターが、派手に吹っ飛んでいく。
「……」
僕は、呆然と、画面を見つめていた。
負けた。
本気でやって、負けた。
「……やった!」
隣で、優愛が、子供みたいに、小さなガッツポーズをしている。
そして、僕の方を見て、最高の、そして、少しだけ、誇らしげな笑顔で、こう言った。
「私の、勝ちだね。溢喜」
その、あまりにも眩しい笑顔。
僕は、もう、何も言えなかった。
悔しい。すごく、悔しい。
でも、それ以上に。
彼女と、こんな風に、本気で競い合える時間が、どうしようもなく、幸せだった。
僕らの、ゲームセンターでの時間は、まだ、もう少しだけ、続きそうだった。




