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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百十八話 ゲーセンと、君の横顔

テーブルの下で、そっと重ねられた、優愛の手。

その温もりを感じながら、僕らは、今までで一番、甘くて、幸せな朝食の時間を終えた。


レストランを出ると、船の窓を、ぱらぱらと、雨粒が叩いていた。

「……雨だ」

「ほんとだ……」

空は、厚い灰色の雲に覆われている。

楽しみにしていたデッキでの日光浴も、プールも、今日はお預けらしい。


「どうする? 今日」

僕が尋ねると、優愛は、少しもがっかりした様子を見せず、僕の手をきゅっと握った。

「大丈夫だよ。この船、中に映画館も、ゲームセンターも、図書館もあるんだって。探検してみない?」

「へえ、すごいな!」


僕らは、まず、船の最下層にある、ゲームセンターへと向かった。

豪華な船内とは少し不釣り合いな、薄暗い空間に、電子音が賑やかに鳴り響いている。

その、どこか懐かしい雰囲気に、僕らの心も、自然と浮き足立った。


「うわ、エアホッケーあるじゃん! やろうぜ、優愛!」

「いいよ。でも、手加減しないからね?」

「望むところだ!」


僕らは、子供の頃に戻ったみたいに、一つの台に向かい合った。

カン、カン、とパックを打ち合う、乾いた音。

最初は僕が優勢だったが、次第に慣れてきた優愛の、鋭いスマッシュが僕のゴールに突き刺さる。


「やった!」

「くそー、もう一回!」


点が入るたびに、大げさにはしゃいだり、本気で悔しがったり。

その、あまりにも無邪気な優愛の笑顔を見ているだけで、僕の心は、どうしようもないくらいの幸福感で、満たされていった。


白熱した戦いの後、僕らは、クレーンゲームが並ぶエリアへと足を向けた。

ガラスケースの中には、可愛らしい動物のぬいぐるみや、人気キャラクターのフィギュアが、所狭しと並べられている。


「あ、見て溢喜! あの犬のぬいぐるみ、可愛い!」

優愛が指差したのは、大きな、くたっとした犬のぬいぐるみだった。

確かに、可愛い。


「……欲しいのか?」

僕がそう言うと、彼女は「ううん、別に」と首を横に振った。

でも、その目は、ガラスケースの中のぬいぐるみに、釘付けだった。


(……やばい。こういう時の、僕の見せ場じゃないのか、これ)


希望の「男の見せ場ってもんがあるんだよ!」という、いつかの言葉が、頭をよぎる。

よし、やるしかない。


「ちょっと、待ってろ」

僕は、両替機にお札を入れると、コインをジャラジャラとポケットに詰め込み、その台の前に立った。


「え、溢喜、本気?」

「まあ、見てて。僕、こういうの、地味に得意なんだよ」


それは、全くの嘘だった。

中学の時、希望と何度かやったことがあるが、取れたためしがない。

でも、今、僕の背後には、キラキラした目で僕を見つめる、世界で一番、大切な女の子がいる。

ここで、格好悪いところなんて、見せられるはずがない。


僕は、大きく、深呼吸をした。

そして、ぎこちない手つきで、クレーンを操作し始めた。

僕の、人生を賭けた(大げさだ)、プライドを賭けた戦いが、今、始まろうとしていた。

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