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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百十六話 寝たフリの、向こう側

僕の意識を、ゆっくりと現実へと引き戻したのは、窓の隙間から差し込む、柔らかな光と……頬を、つんつん、と優しくつつかれる、不思議な感触だった。


(……なんだ?)


まだ重い瞼を開けずにいると、今度は、僕の鼻を、小さな指が、そっと、つまんだ。

そして、すぐに離れる。

その、あまりにも子供っぽくて、可愛らしいいたずらに、僕は、一瞬で誰の仕業かを悟った。


(……優愛か)


そうだ。僕らは、旅行に来ているんだ。

昨夜は、杏奈先輩の捜索で疲れて、ベッドに入ってすぐに、眠ってしまったんだっけ。


僕は、そのまま、静かに寝たフリを続けることにした。

僕が眠っていると思って、油断しきっている彼女が、次に何をするのか、見てみたくなったのだ。


隣で、優愛が、くすくす、と、声を殺して笑っている気配がする。

やがて、彼女は、僕の髪を、そっと、優しく撫で始めた。

まるで、壊れ物を扱うみたいに、丁寧な手つきで。


その、あまりにも優しい感触に、僕の心臓が、きゅん、と甘く鳴った。

なんだよ、それ。反則だろ。


彼女は、しばらく僕の髪を撫でていたが、やがて、その手は、ゆっくりと、僕の顔の輪郭をなぞり始めた。

眉、目、鼻、そして……。

僕の、唇の上で、彼女の指が、ぴたり、と止まった。


(……!)


心臓が、大きく、跳ねる。

頼む、聞こえるなよ。

僕が、必死に平静を装っていると、彼女は、ほんの少しだけ、ためらった後。

その指先で、僕の唇を、そっと、なぞった。


もう、ダメだ。

限界だ。


僕は、次の瞬間。

今まで眠っていたのが嘘だったかのように、勢いよく、彼女の体を、腕の中に、抱きしめていた。


「わっ……!?」


僕の、突然の行動に、優愛が、素っ頓狂な声を上げる。

僕は、彼女を、ぎゅっと、抱き枕みたいに抱きしめると、耳元で、囁いた。


「……おはよう、優愛。僕の顔で、遊ぶのは、楽しいか?」

「い、いつから……起きて……!?」

「最初から」


僕の腕の中で、彼女の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていくのが、分かった。

その、あまりにも可愛すぎる反応に、僕は、もう、どうしようもないくらいの優越感で、胸がいっぱいになった。


「……降参、か?」

僕が、少しだけ意地悪くそう言うと、彼女は、僕の胸に顔をうずめたまま、小さな声で、こう言った。


「……まだ」


そして、彼女は、僕の腕の中から、少しだけ顔を上げて、僕の唇に、ちゅ、と、触れるだけの、キスをした。


「……これで、おあいこ、でしょ?」


そう言って、悪戯っぽく笑う彼女は、間違いなく、僕が知っている中で、一番、可愛くて、そして、一番、敵わない、僕だけの、最高の彼女だった。

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