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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百十三話 君の涙、僕の決意

夜のマーケットは、昼間の賑わいが嘘のように、静まり返っていた。

ほとんどの店はシャッターを下ろし、オレンジ色の裸電球だけが、石畳の道をぼんやりと照らしている。


「杏奈せんぱーい! いませんかー!」


僕の声が、静かな路地に虚しく響く。

返事はない。

焦りだけが、じりじりと胸を焼いていく。船の出航時間まで、もう一時間を切っていた。


(……どこに行ったんだよ)


僕は、昼間、優愛へのプレゼントを探して歩き回った道を、もう一度、必死に辿り直した。

アクセサリーの露店、ガラス細工の店、そして、あの『Star Sand Jewelry』。

店の前まで行ってみたが、もちろん、もう固く扉は閉ざされていた。


その時だった。

ピコン、と、ポケットの中のスマホが短く鳴った。

優愛からのメッセージだった。


『ビーチの方は、いなかった。今から港に向かう』


そっちもダメか……!

僕は『了解。僕も港に向かう』とだけ返信し、マーケットを駆け抜けた。


港の、時計台の下。

そこには、すでに、息を切らせた優愛と、青い顔をした瀧川先輩が立っていた。


「……どうだった」

「ダメでした。こっちも、どこにも……」


重い空気が、僕らの間を流れる。

時計台の針が、無情にも、時を刻んでいた。出航まで、あと三十分。


「……俺のせいだ」

瀧川先輩が、絞り出すような声で言った。

「俺が、あんなくだらないことで、意地を張らなければ……。あいつ、方向音痴なんだ。一人で、夜道で、迷ってるのかもしれない……」


自分を責め、今にも泣き出しそうな先輩の姿。

僕には、かける言葉が見つからなかった。


「……まだ、時間はあるよ」


その、重い沈黙を破ったのは、優愛だった。

彼女は、涙をこらえながらも、凛とした、強い声で言った。


「諦めちゃ、だめ。もう一度、探そう。今度は、三人で。……溢喜、どう思う?」


僕に、意見を求めてきた。

そうだ。僕は、ただの付き添いじゃない。君の、パートナーなんだ。


僕は、一度、大きく息を吸った。

そして、パニックになりかけている頭を、必死で回転させる。


(……もし、僕が杏奈先輩だったら)


彼氏とケンカして、一人になって、知らない土地で、道に迷ってしまったら。

どこに行く?

暗くて、怖い場所には、行かないはずだ。

きっと、明るくて、人がいて、安心できる場所に……。


「……先輩」

「……なんだ」

「杏奈先輩って、星、好きですか?」

「え……? ああ、好きだけど……」


「……分かりました。一つだけ、心当たりがあります」


僕は、二人の顔を見て、言った。

「先輩は、港の周り、特に明るい大通り沿いを探してください。優愛は、僕と一緒に来てほしい」

「え……?」

「時間がない。行こう!」


僕は、優愛の手を強く引き、走り出した。

目指すのは、昼間、僕らがレンタサイクルで偶然見つけた、島の、一番高い場所。

夜景が綺麗に見えるという、小さな、展望台。


頼む、いてくれ……!

僕は、祈るような気持ちで、暗い坂道を、全力で、駆け上がった。

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