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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百十二話 二人だけの、夜の船

二度目のキスは、少しだけ、しょっぱい潮風の味がした。

でも、それ以上に、どうしようもなく、甘かった。

僕らは、どちらからともなく、ゆっくりと唇を離す。

目の前には、顔を真っ赤にして、でも、幸せそうに、とろけるような目をした優愛がいた。


「……部屋、戻ろっか」

「……うん」


僕らは、どちらも、まともに顔を見合わせられないまま、バルコニーから部屋の中へと戻った。

静まり返った部屋。

昼間とは比べ物にならないくらい、甘くて、濃密な空気が、僕らの間を流れている。


「……シャワー、浴びてくる」

「あ、ああ……」


優愛がバスルームに消えていく。

一人、部屋に残された僕は、まだ熱い自分の唇に、そっと指で触れた。

(……僕、本当に、キス、したんだな)

その事実が、まだどこか夢みたいで、ふわふわとしていた。


僕もシャワーを浴びて部屋に戻ると、優愛は、バスローブ姿で、ベッドの端にちょこんと腰掛けて、窓の外を眺めていた。

その、あまりにも無防備で、あまりにも美しい姿に、僕の心臓が、また大きく跳ねる。


「……あのさ」

僕が、何かを言いかけた、その時だった。


ブルルルル……!


静寂を破って、僕のスマホが、激しく震えた。

画面に表示されたのは、「瀧川先輩」の名前だった。


「……もしもし?」

『おお、溢喜か! 悪い、今どこにいる!?』

電話の向こうの先輩の声は、なぜか、ひどく焦っているようだった。


「え、部屋ですけど……。どうかしたんですか?」

『それがな、大変なんだ! 杏奈が、いなくなっちまった!』

「え!?」


どうやら、先輩カップルは、夕食の後、二人で島に降りて、夜の散歩をしていたらしい。

『ちょっとしたことで、口論になって……。杏奈が「一人になる」って言って、走り去っちまったんだ。もう一時間以上経つのに、電話にも出なくて……』

船の出航時間は、もう一時間後に迫っていた。


「……分かりました。僕らも、探しに行きます!」

『……すまん、助かる! 俺は、あいつと最後にいたカフェの周辺を探してる!』

「分かりました! じゃあ、僕と優愛で、他の場所を手分けして探します!」


電話を切り、僕は、何があったのかと不安そうに見ている優愛に、事情を説明した。

彼女は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに、きっぱりとした顔で頷いた。

「うん、行こう!」


僕らは、急いで服を着替え、部屋を飛び出した。

船を降り、夜の寄-港地の、ひんやりとした空気に身を晒す。

街灯の頼りない光だけが、石畳の道を照らしていた。


「……どうする?」

優愛が、僕の顔を見て尋ねる。

僕は、頭の中で、昼間歩いた島の地図を思い浮かべながら、言った。


「先輩は、カフェの周辺を探してる。だから、僕たちはそれ以外の場所だ。僕は、昼間に行ったマーケットの方を見てくる。優愛は、ビーチの方、頼めるか? 危ないと思ったら、すぐに連絡しろよ」

「うん、分かった!」


僕らは、二手に分かれて、走り出した。

さっきまでの甘い空気は、どこかへ消えてしまった。

でも、不思議と、嫌な気はしなかった。


杏奈先輩、無事でいてくれ。

そして、安心してくれ、優愛。

僕も、もう、ただ守られてるだけの男じゃないんだ。

僕は、夜のマーケットの中を、杏奈先輩の名前を呼びながら、全力で、駆け抜けた。

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