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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第二章 修行の始まり
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第十一話 優誓おじいちゃん発・はとこサミット 参

玄関に立つ優愛を見て、僕の頭の中は真っ白になった。

優愛も同じように驚いているようで、僕と目が合うと、少し口を開けたまま固まっている。


「おやおや?知り合いなのかい?」

優誓おじいちゃんがにやにやしながら聞く。

「え、えーっと...」

優愛が困ったような声を出すと、美褒が助け船を出した。

「あ〜、溢喜の幼馴染だよ〜。同じクラスの」

「ほう!それは面白い!」

優誓おじいちゃんの目がキラキラと輝く。これはヤバい予感しかしない。

その予感は見事に当たった。


「まあ優愛。とにかくこっちに来い。話はそれからだ」

そう言って優誓おじいちゃんは空いている一席に座るよう言った。

そう、その一席は優誓おじいちゃんの隣でもあり、僕の隣でもある。

知ってる人が隣に来てほしいと願った。

願ったけど、初恋の相手が隣に来るなんて、想定外だった。

しかも、幼馴染だと思ってた相手が、まさかのはとこだったなんて…。


優愛は僕の隣の空いている椅子に座った。

「なんで...ここに?」

僕が小声で聞くと、優愛も小声で答えた。

「おじいちゃんに急に呼ばれて...。溢喜こそ、なんでここにいるの?」

「僕も同じ。急に『光道家の未来について話し合う』って言われて」

二人で顔を見合わせる。

そうか、優愛も僕と同じように、何も知らされずに連れてこられたんだ。


「さあ優愛。自己紹介を」

優誓おじいちゃんが言った。

「遅くなりましたが、祖父・優誓の孫、海波優愛です」

ゆるくウェーブのかかった長い黒髪が、ふわりと揺れた。いつもの優愛なのに、なんだか違って見える。


「では、全員揃ったところで本題に入ろう」

優誓おじいちゃんが手を叩く。

「光道家の跡継ぎ問題についてだ。ご存知の通り、我々四兄弟には息子がいない。そこで、孫の世代から跡継ぎを選ぶ必要がある」

はとこたちがざわめく。

「しかし、男は溢喜一人だ。しかも溢喜は、頭は悪いし、仕事はできないし…。ともかく、このまま継がせたら、危険だ」

おいおい。

今めちゃくちゃ傷つけられたんだが。

だけど、僕には言い返せる自信がなかった。

事実を否定したら、言い訳になってしまうと思ったから。


「だが、俺たち光道兄弟で話し合った結果、性別に関係なく、最も優秀な者が継ぐべきだという結論に至った」

優愛が少し身を乗り出した。

「それで、みんなを集めたの?」

「そうだ。まずはお互いを知ることから始めようと思っただけだ」


僕は優愛の方をちらっと見る。彼女も同じように僕を見ていた。

「なんで今まで家族のこと、話さなかったんだろうね」

優愛が小さくつぶやく。

「僕も...。なんとなく、家のことって話しにくくて」

「私も同じ。なんか、普通の高校生でいたかったのかも」


そうか、優愛も同じ気持ちだったんだ。

光道家の孫としてじゃなく、ただの優愛として接してもらいたかった。

僕も、ただの溢喜として…

だから、お互いに何も言わなかったんだ。


「でも、今日からは違うな」

僕がそう言うと、優愛が少し笑った。

「うん。はとこ同士だったなんて、運命的だね」

「運命...か」

その言葉に、胸がドキッとした。

優愛との関係が、また一つ変わった気がした。

幼馴染から、はとこへ。

でも、僕の気持ちは変わらない。

むしろ、もっと複雑になった気がする。


「さあ、今日は顔合わせだ。明日からは本格的な『光道の修行』を始めるぞ!」


優誓おじいちゃんの言葉に、全員がざわめいた。

え?!明日も?!

修行って、一体何をやらされるんだろう。

隣を見ると、少し恥ずかしそうな優愛がいた。

わかるぞ優愛。

もし自分の祖父もこんな性格だったら、嫌だよな。

それに僕自身、“頭は悪いし、仕事はできないし”とカウンターを決められたからな…。


「……なんか、すごいことになっちゃったね」

僕がぼそっと言うと、優愛が小さく笑った。

「うん。でも……頑張ろう」

その言葉に、僕はうなずいた。

不安もある。自信なんてない。

でも今なら、少しは前に進める気がする。

——よし。やるしかないか。


「そういえば、溢喜?」

優愛が小さな声で聞いてきた。

「どうした?」

それに応えるように僕も小さな声で返した。

「……その、今日のこの話し合いが終わったら、少しだけ付き合ってくれる?」

僕は一瞬、言葉の意味を考えてしまった。

“付き合う”って、どういう意味で言ったんだろう。

でも優愛は、僕の反応を待たずに続けた。


「前に言ってくれたでしょ。どこか一緒に行こうって。あれ、まだ有効なら…ちょっとだけ、歩きたい気分なんだ」

彼女の声は、少しだけ震えていた。

でも、目はまっすぐ僕を見ていた。

「……うん。もちろん」

僕の返事に、優愛はふっと笑った。

その笑顔は、さっきまでの“光道家の孫”じゃなくて、僕の知ってる“優愛”だった。

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