第百九話 君の秘密と、僕の宝物
僕の、初めての、彼女へのクリスマスプレゼント。
その、小さな、でも、僕の全ての想いが詰まった宝物を、僕は、落とさないように、大事に、大事に、ポケットの奥にしまった。
(……そういえば、なんであのおじいさん、あんなに日本語、上手かったんだろうな……?)
まあ、観光客が多い島だから、勉強したのかもしれない。
僕は、その小さな疑問を頭の隅に追いやり、今はただ、この達成感と幸福感に浸っていた。
約束の時間が近づき、僕は、待ち合わせ場所にしていた、広場の噴水へと戻った。
すでに、優愛はそこに座って、噴水の水しぶきを、ぼんやりと眺めていた。
その手には、僕に見られないように、小さな、可愛らしい紙袋が、大事そうに握られている。
(……見つけたんだな、優愛も)
その、隠しきれていない「秘密」が、たまらなく愛おしい。
僕は、気づかれないように、そっと息を整えてから、彼女に声をかけた。
「――お待たせ」
「あ、溢喜! おかえり」
僕の姿を認めた彼女は、はっとしたように、慌てて紙袋を、自分のバッグの中に隠した。
その、あまりにも分かりやすい行動に、僕は、もう、笑いをこらえることができなかった。
「……ぷっ」
「な、何がおかしいのよ!」
「いや、別に? 何か、隠してるのかなって」
「か、隠してない!」
顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いてしまう優愛。
その反応の一つ一つが、今はもう、僕にとっての宝物だ。
「……お腹、すかないか?」
僕がそう言って空気を変えると、優愛は「……すいた」と、少しだけ拗ねたように、でも、こくりと頷いた。
僕らは、ビーチが見える、お洒落なカフェへと向かう。
テラス席に案内されると、目の前には、エメラルドグリーンの海が、キラキラと輝いていた。
二人で、ハンモックに揺られながら、冷たいトロピカルジュースを飲む。
「……疲れた?」
「ううん。すごく、楽しい」
そう言って笑う優愛の横顔は、南国の太陽の下で、いつもより、ほんの少しだけ、大人びて見えた。
その、白い首筋で、キラリと光るもの。
それは、あの日、僕が彼女に贈った、「お守り」のブレスレットだった。
僕が贈ったものを、彼女が、この特別な旅行に、ちゃんとつけてきてくれている。
その事実が、僕の胸を、どうしようもなく、熱くした。
僕のポケットの中にも、彼女のための、新しい「お守り」が入っている。
早く、渡したい。
その気持ちが、僕の中から溢れ出しそうだった。
「……なあ、優愛」
「ん?」
「プレゼント、いつ渡すか、決めてなかったよな」
「……うん。そうだね」
「だったら、さ。明後日……クリスマスイブの夜に、交換しないか?」
僕の、少しだけ緊張した提案。
優愛は、一瞬きょとんとした後、すぐにその意味を察したようだった。
みるみるうちに、彼女の頬が、夕焼けのように、赤く染まっていく。
「……うん。いいね、それ。……約束、だよ」
か細い、でも、どうしようもなく嬉しそうな声。
その声と、照れたように俯いてしまった彼女の横顔。
それだけで、僕の心は、どうしようもないくらいの幸福感で、満たされていった。
僕らの、初めてのプレゼント交換まで、あと、二日。
その日が、待ち遠しくて、たまらなかった。




