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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百五話 仮面の夜に、君とワルツを

プールでの、少しだけ恥ずかしくて、でも最高に甘いハプニングの後。

僕らは、一度部屋に戻り、夜のパーティーのための準備をしていた。

旅行二日目の夜。そのメインイベントは、船上で行われる仮面(マスカレード) ()舞踏会(パーティー)だった。


「……どう、かな? 変じゃない?」

バスルームから出てきた優愛の姿に、僕は、息を呑んだ。

昼間の、元気なワンピースタイプの水着姿とは全く違う。

濃紺の、星空みたいな色の、上品なドレス。いつもは下ろしていることが多い髪は、綺麗にアップにされ、きらきらと光る小さな髪飾りが、アクセントになっている。

息を呑むほど、大人びて、美しい姿。


「……いや」

僕は、かろうじて、それだけを絞り出した。

「すごく、綺麗だ」


僕の、あまりにも素直な言葉に、彼女は「ありがと」と、今までで一番、嬉そうにはにかんだ。


僕も、クローゼットの中から、この日のために用意されていた、タキシードに着替える。

鏡に映る自分は、なんだか見慣れない、借り物みたいな姿で、そわそわしてしまう。


「……溢喜も、かっこいいよ」

「……そうか?」

「うん。すごく」


僕らは、顔を見合わせて、どちらからともなく、笑ってしまった。


会場となっている、船のメインホール。

そこは、昼間とは全く違う、幻想的な空間に変わっていた。

シャンデリアの柔らかな光の下、色とりどりのドレスやタキシードに身を包んだ乗客たちが、楽しそうに談笑している。

入り口で、僕らは、シンプルなデザインの、黒い仮面を渡された。


「……すごいね」

「ああ」


仮面を目元にあてがうと、不思議と、いつもの自分じゃない、別の人格になったような、大胆な気持ちが湧いてくる。


やがて、会場に、優雅なワルツの曲が流れ始めた。

周りのカップルたちが、次々と、ダンスフロアへと進み出ていく。


「……」

僕の隣で、優愛が、どこか羨ましそうな、キラキラした目で、その光景を見つめている。

その横顔を見て、僕の心は、決まった。


(……やるしかないだろ、男として)


僕は、一度、大きく深呼吸をした。

そして、練習したこともない、ぎこちない動きで、彼女の前に、そっと、片膝をついた。


「え……!?」

驚いて、目を見開く優愛。


僕は、彼女の手を取り、できるだけ、紳-士的に、言った。


「……僕と、踊っていただけませんか?」


僕の、あまりにも不慣れで、あまりにも真剣な誘い。

優愛は、一瞬きょとんとした後、顔を真っ赤にしながらも、その手で、口元を隠し、そして、最高の笑顔で、こう言った。


「……はい、喜んで」


僕らは、手を取り合って、フロアの中央へと進み出る。

ワルツのステップなんて、知らない。

でも、今は、そんなこと、どうでもよかった。

ただ、彼女の目をまっすぐに見つめて、その体を、そっと、エスコートする。

僕のリードに合わせて、くるり、と優雅に回る、彼女。


周りの景色も、音楽も、全てが遠くに聞こえる。

この、仮面に隠された、二人だけの世界。

僕らは、ただ、互いの温もりだけを感じながら、いつまでも、いつまでも、踊り続けていた。

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