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面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
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第百一話 ダブルベッドと、君の寝顔

「……部屋、戻るか?」


デッキの上で、僕がそう言うと、優愛は、繋がれた手を見つめたまま、小さな声で、「うん」とだけ、答えた。

僕らは、どちらからともなく、ゆっくりと歩き出す。

目指すのは、船内に一つだけ割り当てられた、僕らの部屋。


カチャリ、とカードキーでドアを開け、部屋に入る。

昼間、あれだけ心を奪われた、丸窓の向こうの海の景色も、今はもう目に入らない。

僕らの意識は、部屋の中央に、堂々と鎮座する、一つの家具に、完全に釘付けになっていた。


大きな、ダブルベッド。


「……」

「……」


シーン、と静まり返った部屋。

先に口を開いたのは、僕だった。


「……僕、ソファで寝るから」

部屋の隅にある、小さな一人掛けのソファを指差す。

「え、だめだよ! そんなところで寝たら、絶対、風邪ひいちゃう!」

「でも……」

「だめ!」


優愛は、僕の言葉を、きっぱりとした、でも少しだけうわずった声で、遮った。

そして、顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声で、こう続けた。


「……ベッド、広い、から。……大丈夫、だと、思う」


その、あまりにも健気で、あまりにも可愛い提案に、僕の心臓は、もう、どうにかなってしまいそうだった。

(……優誓おじいちゃんめ……。絶対に、こうなることを見越して、この部屋を取ったに違いない……!)

僕は、今はここにいない優誓おじいちゃんの、してやったりな顔を思い浮かべて、心の中で悪態をついた。


結局、僕らは、それぞれシャワーを浴びた後、ぎこちない動きで、その大きなベッドの両端に、そろりと腰を下ろした。


(……やばい。意識したら、眠れるわけない)


枕が、一つしかないことに、今さら気づく。

僕らは、背中合わせになるようにして、ベッドに横になった。

優愛の、規則正しい寝息が聞こえてくるまで、一体、どれくらいの時間が経っただろうか。


僕は、そっと、体を反転させた。

月明かりが、丸窓から、静かに差し込んでいる。

その、淡い光の中で、僕のすぐ隣で眠る、優愛の無防備な寝顔が、浮かび上がっていた。


少しだけ開かれた、唇。

穏やかな寝息に合わせて、上下する、華奢な肩。

僕の方に、無意識に伸ばされた、小さな手。


(……好きだ)


その、どうしようもないくらい溢れ出す気持ちのままに。

僕は、そっと、手を伸ばした。

そして、彼女が、寒くないように、掛け布団を、肩のあたりまで、そっと、引き上げてあげた。


その瞬間。

「……ん」

優愛が、小さく寝言を漏らし、身じろぎをした。

そして、次の瞬間。

彼女は、僕の腕を、ぎゅっと、枕か何かと勘違いしたかのように、抱きしめてきた。


「……!」


至近距離に、彼女の寝顔。

僕の腕に伝わる、彼女の柔らかな感触と、温もり。

そして、首筋にかかる、甘い寝息。


もう、ダメだ。

僕の心臓は、とっくに限界を超えていた。

眠れるはずなんて、到底、なかった。


僕らの、初めての夜は、僕にとって、人生で一番、長くて、幸せな、試練の夜として、静かに、更けていった。

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