表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面倒見のいい幼馴染が、今日も僕を叱る  作者: Takayu
第七章 恋人たちの航海
100/185

第百話 初めてのディナー

「僕がいるから」


デッキの上で、夕日に染まる海を見ながら、僕がそう言うと、優愛は、繋いだ僕の手に、きゅっと力を込めて、嬉しそうに頷いてくれた。

僕らの、忘れられない一週間の旅は、最高の形で、その幕を開けた。


日が完全に沈み、船上が美しいイルミネーションで彩られる頃。

僕らは、一度部屋に戻り、ディナーのための服に着替えることにした。


「……どう、かな?」

部屋のバスルームから出てきた優愛の姿に、僕は、息を呑んだ。

昼間とは違う、少しだけ背中の開いた、上品なネイビーのワンピース。いつもより、ほんの少しだけ、大人びて見える。

「……すごく、綺麗だ」

僕が、ほとんど無意識にそう呟くと、彼女は「ありがと」と、今までで一番、嬉しそうにはにかんだ。


僕も、優愛に選んでもらった、あのネイビーのニットに着替える。

二人で並んで鏡の前に立つと、なんだか、本当に映画の主人公にでもなったみたいで、気恥ずかしくて、でも、誇らしかった。


僕らが向かったのは、船のメインダイニング。

きらびやかなシャンデリアの下、白いテーブルクロスがかかった席で、僕らは少しだけ緊張しながら、メニューを開いた。


「……すごい。何が書いてあるか、全然わかんない」

「ふふっ。私も」

二人で顔を見合わせて、笑い合う。

結局、ウェイターさんにおすすめを聞いて、僕らはコース料理を注文した。


運ばれてくる、見たこともないくらい美しい料理。

ぎこちない手つきで、ナイフとフォークを動かす。

その一つ一つの時間が、今は全部、宝物みたいに思えた。


「……なあ、優愛」

「ん?」

「なんかさ、こうしてると、本当に、夢みたいだな」

「うん。……私も、そう思う」


僕らは、ただ、笑い合った。

周りには、僕らと同じように、特別な夜を楽しむ、たくさんのカップルや家族がいる。

でも、僕の目には、目の前で嬉しそうに頬張る、優愛の姿しか、映っていなかった。


食事を終え、僕らは、夜風に当たりに、もう一度デッキへと向かった。

見上げれば、満点の星空。

寄せては返す、穏やかな波の音。


「……星、すごいね」

「ああ。街にいると、こんなに見えないもんな」


手すりに寄りかかり、二人で夜空を眺める。

ふと、近くで流れていたジャズの生演奏に合わせて、一組の老夫婦が、ゆっくりとダンスを踊り始めた。

その、あまりにも自然で、美しい光景に、僕らは、ただ見とれていた。


「……素敵だね」

優愛が、ぽつりと呟いた。

その横顔は、星明かりに照らされて、昼間とは違う、幻想的な美しさだった。


(……いつか、僕も)


こんな風に、自然に、彼女をエスコートできるような、そんな男に、なりたい。

僕は、そっと、彼女のすぐそばにあった手に、自分の手を伸ばした。

優愛が、びくりと肩を揺らす。でも、振りほどきはしなかった。


「……部屋、戻るか?」

僕がそう言うと、彼女は、繋がれた手を見つめたまま、小さな声で、「うん」とだけ、答えた。

僕らの、初めての夜は、まだ、始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ