第十話 優誓おじいちゃん発・はとこサミット 弐
玄関をくぐると、涼しい空気と木の香りが一気に押し寄せてきた。
広いホールには、大きな階段と、いくつもの部屋に続く廊下が見える。
まるで本当にお城みたいだ。
「お、溢喜、美褒、来たな!」
奥から優誓おじいちゃんの声が響く。
白いシャツに派手なスカーフ、そしてこの状況を完全に楽しんでいる顔。
「こっちだ、こっち。会議室に案内するぞ」
優誓おじいちゃんに連れられて、廊下を歩く。
廊下の壁には絵画がたくさん飾られていた。どれも高そうだ。
会議室の前に着いた。重厚な木製のドアが閉まっている。
「さあ、入るぞ」
ドアを開けると、そこには大きな楕円形のテーブルがあった。
その周りに、女子ばかり――いや、女子しか座っていなかった。
あれは、本当だったんだ!
ざっと見ただけで、年齢も雰囲気もバラバラだ。
真っ先に目が合ったのは、長い黒髪をひとつにまとめた、落ち着いた雰囲気の子。
その隣でペンを回しているのは、茶髪で笑顔がやたら人懐っこい子。
一番奥でスマホをいじっているのは、たぶん僕と同い年くらい。
——あ、目が合った。すぐ逸らされたけど。
数えてみると十人以上いる。
こりゃダメだ。オワタ。
テーブルの一角が空いていて、美褒と並んで座る。
近くの子たちの視線が、明らかに"物珍しいものを見る目"なのが、ちょっと刺さる。
まあ、男子僕ひとりだし、仕方ないけど。
「まだ一人来ていないが、始めようか」
僕の隣を一席あけて、優誓おじいちゃんは座る。
誰だその一人。
頼むから、僕が知ってる人が隣に来てほしい。
「まずは自己紹介からだ。名前と、どの家系かを言ってくれ」
優誓おじいちゃんが手を叩くと、順番に名前と簡単な自己紹介が始まった。
順番が進むにつれて、空気が少しずつ和らいでいく。
でも、みんなが笑っている時、優誓おじいちゃんだけは目を細め、何かを計っているような表情をしていた。
最後に、僕の番が来る。
「あー…溢喜です。えっと、真実おじいちゃんの家系です」
「得意なこと、女子との会話なんだろ!」
優誓おじいちゃんが余計なひと言をぶち込んだ瞬間、場がざわつく。
美褒が小声で「やっぱ言うと思った~」と笑った。
あー、もー、恥ずかしい。
何してんだよ、ホントに……。
そういえば、優誓おじいちゃんの家系の子、いなかったな。
そう思っていたのも束の間、会議室のドアがノックされた。
「みんな、やっと来たぞ!」
もしかして、さっき言ってた子か?!
ドアが開いて、優誓おじいちゃんが立ち上がった。
「紹介しよう!俺の愛しの孫、娘といってもいい……優愛だ!」
その声と同時に、会議室の空気が少し変わった気がした。
ゆっくりと入ってきたのは、紛れもなく——僕の初恋の相手、優愛だった。
ゆ、ゆあ?!
心臓が一拍、跳ねる。
息が少し浅くなる。
優愛が、どうしてここに……?!
いや、待てよ。優誓おじいちゃんの孫って言ったよな。
ということは、優愛も光道家の血筋?
幼馴染が、まさか僕のはとこだったなんて...。
なんで今まで一度もそんな話が出なかったんだ?




