コミット 95:『初仕事は迷子探し!?ギャルと猫耳、犬を追って王都を駆ける!』
冒険者ギルドに無事登録し、ピカピカのギルドカードを手に入れたニーナ。早速、何か簡単な依頼でも受けてみようかと、ギルドの依頼掲示板を眺めていた。
「(ふむふむ……薬草採集、ゴブリン討伐、荷物運び……まあ、最初はこんなもんか。あんまり難しい依頼だと、今の私じゃ手に余るしな……)」
ニーナが依頼書を吟味していると、一枚の風変わりな依頼が目に留まった。
「『緊急依頼:愛犬スポット(小型犬、茶色の巻き毛)を探してください!謝礼:銅貨50枚と、おばあちゃん特製のクッキー』……だって。可愛いじゃん、この依頼!」
その依頼主は、王都の片隅で一人暮らしをしている老婆らしく、いなくなってしまった愛犬を心から心配している様子が、依頼書の拙い文字からも伝わってくる。
「よし、決めた!今日の初仕事は、この迷子のスポット探しだ!」
「えっ!?ニ、ニーナさん、本気ですか……?もっと、こう……実入りの良い依頼とか、あるのでは……」
セレスティは、少し呆れたような顔で言った。
「いーのいーの!こういうのは、やり甲斐が大事なんだって!それに、おばあちゃんのクッキー、気になるじゃん!」
ニーナは、あっけらかんと笑う。
ヴァローナは、相変わらずの仏頂面で何も言わなかったが、特に反対する様子もない。彼女なりに、ニーナの気まぐれな行動には慣れてきたのかもしれない。
こうして、ニーナとセレスティ(ヴァローナは別行動で情報収集)は、迷子のスポット探しという、冒険者の初仕事とはおよそ思えない任務を開始することになった。
老婆からスポットの特徴や、いなくなった時の状況などを詳しく聞き出し、二人は王都の街へと繰り出す。
「(小型犬で、茶色の巻き毛……ね。王都は広いから、見つけるのは大変そうだ。でも、こういう時は、SE的な『絞り込み検索』が有効なはず!)」
ニーナは、まずスポットが好きそうな場所(公園、肉屋の裏、日当たりの良い路地など)をリストアップし、セレスティと手分けして聞き込みを開始する。セレスティは、相変わらず人と話すのは苦手そうだったが、ニーナに励まされ、一生懸命に情報を集めようと努力していた。
「あ、あの……こ、この辺りで、茶色くて、クルクルした毛の、小さな犬を、見かけませんでしたでしょうか……?ス、スポット、という名前なのですが……」
最初はどもってばかりだったセレスティも、何人かと話すうちに、少しずつではあるが、スムーズに言葉が出てくるようになっていた。それは、彼女にとって、ささやかながらも確かな成長だった。
数時間後、二人は有力な目撃情報を得ることに成功する。スポットは、どうやら肉屋でソーセージを失敬し、それを追いかけられて、王都の外れにある古い森の方へと逃げ込んだらしい。
「よし、スポットの最終確認ログは、あの森だな!行くぞ、セレスティさん!」
「は、はいっ!」
二人は、王都の外れの森へと急いだ。森の中は薄暗く、少し不気味な雰囲気だったが、ニーナの魔力感知と、セレスティの猫族ならではの鋭い聴覚を頼りに、スポットの痕跡を追っていく。
そして、ついに、森の奥深くで、木の根元で不安そうに震えているスポットを発見した!
「スポット!いたー!」
スポットは、最初こそ警戒していたが、ニーナとセレスティが優しく声をかけると、安心したように駆け寄ってきて、ニーナの足元にじゃれついてきた。
「(よーし、ミッションコンプリート!これで、おばあちゃんのクッキーが食べられるぞ!)」
無事にスポットを老婆の元へと送り届け、心からの感謝と共に、山のようなクッキーを受け取ったニーナとセレスティ。それは、冒険者としての初仕事としては、あまりにもささやかな報酬だったかもしれない。しかし、誰かの役に立てたという確かな実感と、セレスティの小さな成長を間近で見られたことは、ニーナにとって何物にも代えがたい喜びだった。
この日の経験は、ニーナに、冒険者としての仕事の多様性と、そして人助けの温かさを教えてくれる、貴重な一日となったのだった。




