コミット 91:『世界のバグを解析!セレスティの知識がクロノスの森《エデン》への道を照らす!』
ヴァローナが王都アウレア・シティに到着してから数日後、ニーナ、セレスティ、そしてヴァローナは、アカデミアの一室で作戦会議を開いていた。議題は、ヴァローナが調査している王国内の魔力流異常現象と、それが世界全体に及ぼしている影響についてだ。
「私がこれまでに調査した限りでは、異常な魔力の流れは、国内の特定の地域に集中しているようだ。特に、この『嘆きの谷』や、先日ニーナが解決したという『霧隠れの森』の奥の洞窟、そして王都近郊で頻発している魔物発生のエリア……これらの場所は、地理的には離れているが、魔力の性質に奇妙な共通点が見られる」
ヴァローナは、地図上にいくつかのポイントを記しながら、これまでの調査結果を報告する。彼女が入手した魔力の流れに関するデータは、極めて詳細で、騎士団の情報網と彼女自身の卓越した分析能力の賜物だろう。
セレスティは、そのデータを分析し、魔力の流れを可視化しようと試みた。セレスティが描いた羊皮紙は、ヴァローナのデータを元に、王国の地下深くに広がる複雑な魔力のネットワークを示し始めている。
「(この魔力の流れ……まるで、人体の血管みたいだな。そして、異常が起きているポイントは、その血管が詰まったり、破れたりしているような状態か……?)」
ニーナが、描かれた魔力ネットワークを分析していると、セレスティが、ある古代文献の記述と、そのパターンが酷似していることに気づいた。
「あ、あの……!この、魔力の流れのパターン……私が以前読んだ、古代の『世界樹年代記』という文献に記されていた、『大地の脈動』の図と、とてもよく似ています……!」
セレスティは、埃をかぶった分厚い書物を取り出し、あるページを開いてみせた。そこには、世界の主要な魔力の流れが、まるで木の根のように描かれた、古代の地図のようなものが記されていた。
「この『大地の脈動』は、古代の人々が、世界の生命力を支える根源的な魔力の流れだと考えていたものです。そして、この脈動の中心には、『クロノスの森』と呼ばれる聖なる森があり、その最奥には、世界の創造に関わったとされる『賢者の聖域』が存在すると……」
「クロノスの森……賢者の聖域……」
ニーナは、シルヴァリーフの古本屋で聞いた「エデン」の伝説を思い出していた。「それって、もしかして『エデン』のことか……?」
セレスティは、ニーナの言葉に驚いたように目を見開いた。「えっ!?ニーナさん、エデンのことをご存知なのですか!?エデンは、古代文明の中心地であり、高度な魔法技術が眠る場所だとされていますが、その存在はほとんど伝説として扱われていて……」
「ああ、少しだけな。それで、そのエデンと、今の魔力流の異常に、何か関係があるのか?」
「はい……この『世界樹年代記』によると、エデンは、世界の魔力循環を調整する、巨大な『制御装置』のような役割も担っていた、と記されています。もし、そのエデンに何らかの異常が発生しているとしたら……それが、世界各地の魔力流の乱れを引き起こしている可能性も……」
セレスティの言葉を受けて、ニーナは、ヴァローナのデータと、古代文献の地図を重ね合わせてみる。すると、驚くべきことに、魔力流の異常が集中しているポイントが、古代の地図に記された「大地の脈動」の重要な分岐点や、クロノスの森へと繋がる経路上に、ほぼ正確に一致していることが判明したのだ!
投影された光の線が、まるでエデンの方向を指し示すかのように、一点へと収束していく。
「(間違いない……!世界各地で起きている魔力流の異常……その根本原因は、エデンにある!エデンが、何らかの理由で『バグって』いて、それが世界全体のシステムに悪影響を及ぼしているんだ!)」
ついに、世界のシステムバグの核心に繋がる、重要な手がかりが掴めた。エデン。その伝説の聖域こそが、彼らが目指すべき場所であり、そして世界の運命を左右する鍵となるのかもしれない。古代文明の中心地であり、何らかの要因で滅びたというエデンに、一体何があるというのだろうか。




