コミット 9:『ギャル魔術《チャームスペル》発動!?え、今のって魅了…ってマジ!?』
畑の魔力流調整という名の内緒の作業から数日。あの区画の作物は、少しずつだが着実に元気を取り戻しつつあった。それを見た村人たちは、「日頃の行いが良いから、神様が助けてくれたんだべ」などと言っていたが、まさか異世界から来た元SEがこっそり手直ししていたなんて、本当に想像もしていないだろう。
私の論理魔導の訓練も、少しずつではあるが進歩していた。相変わらず成功率は低いものの、少なくとも爆発することはなくなり、狙った場所に魔力の矢(と呼ぶにはまだお粗末だが)を飛ばせるようにはなってきたのだ。
そんなある日の昼下がり。私は村の子供たちに囲まれていた。
無意識の魅了?きっかけは、本当に些細なことだった。村の広場で一人、魔力コントロールの練習をしていたところ(もちろん、ごく基本的な、魔力を集めたり散らしたりする程度のものだが)、数人の子供たちが興味津々でこちらを見ていたのだ。
「(うわ、また見られてる……。まあ、子供なら大丈夫、かな?)」
前世では子供と関わる機会などまったくなかったが、この世界の子供たちは比較的純粋で、大人たちのようなじろじろとした視線を向けてくることはない。とはいえ、やはり注目されるのは苦手だった。
私が練習をやめてどうしようかと困っていると、一番年上の男の子――確かトビーと言ったか――がおずおずと近づいてきた。
「ねえ、ニーナお姉ちゃん、今のも魔法?」
「え?あ、うん……まあ、そんな感じ、かな?」
しどろもどろに答える私。すると、他の子供たちもわらわらと集まってきて、口々に質問攻めにしてきた。
「すごーい!」「もっと見せて!」「火とか出せるの?」
「(いやいや、火とかまだ無理だって!出せても豆鉄砲レベルだから!)」
内心で焦りつつも、子供たちのキラキラした目で見つめられると、邪険にもできない。私は困り果てて、とりあえず愛想笑いを浮かべるしかなかった。前世で鍛えられた(?)営業スマイル、発動!
「あはは……大したことないよー。まだまだ練習中だしー」
できるだけ明るく振る舞ってみる。すると、どうだろう。子供たちの目の輝きが、さらに増したように見えたのだ。
「ニーナお姉ちゃん、優しいね!」
「もっと遊んでほしいな!」
「お姉ちゃん、大好き!」
口々にそう言って、子供たちが私にまとわりついてくる。中には、私の腕にぎゅっとしがみついてくる子や、背中に飛び乗ろうとする子までいる始末だ。
「え、ちょ、ちょっと、みんな、落ち着いて……!」
私は本気でパニックになった。なぜこんなに懐かれているのか、まったく理解できない。
確かに、水鏡で見た自分の姿は、ダークエルフという種族の特徴を持っているようだった。ファンタジー作品などだと、ダークエルフには人を惹きつけるような不思議な力がある、なんて設定を見たことがあるような気もするが……。
「(……ん?私、何か特別なことしたっけ?もしかして、この身体には、無意識に他人を惹きつけちゃうような、何か……そんな力が備わってるの?ダークエルフ特有の何か、とか……?本気で、ありえないでしょ?)」
背筋に、ゾワゾワッとしたものが走る。もし本当にそうだとしたら、これは本当に厄介な特性だ!意図せず他人を魅了してしまうなんて、コミュ障気味の元SEには荷が重すぎる!
子供たちは、そんな私の内心の葛藤など知る由もなく、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいる。その純粋な笑顔を見ていると、悪い気はしないのだが……やはり、この異常なまでの懐かれ方には、何か裏があるような気がしてならないのだ。
結局、その日は日が暮れるまで、子供たちの遊び相手をさせられる羽目になった。ヘトヘトになって村長の家に戻った私に、マーサさんは「ニーナちゃんは本当に子供に好かれるねえ」とニコニコしていた。
「(……好かれてる、のか?それとも、何か別の力で引き寄せている、のか……?)」
自分の持つ、まだよく分からない力。それが少しだけ怖くなった、そんな一日だった。
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