コミット 88:『古代魔法の「思想」に触れる!?論理だけではない魔力の共鳴!』
ニーナとセレスティによる古代魔法の解析作業は、ますます深まっていた。3Dモデル化された魔導回路を分析し、失われた技術の断片を繋ぎ合わせていく中で、二人は、古代魔法が単なる論理や技術の集積だけではないことに気づき始めていた。
「(この魔導回路……どう考えても、エネルギー効率が悪すぎる。現代の理論なら、もっとシンプルな構造で同じ効果が出せるはずだ。なのに、どうして古代人は、こんな複雑で、ある意味『無駄』とも思えるような設計をしたんだろう……?)」
ニーナが、ある古代の防御系魔道具の解析中に、そんな疑問を口にした。その魔道具は、複数の異なる属性の魔石を複雑に組み合わせ、魔力の流れを幾重にも重ね合わせることで、強力な力場で防御フィールドを形成するというものだったが、その構造はあまりにも冗長で、理解に苦しむものだった。
セレスティは、しばらく考え込んだ後、おずおずと口を開いた。
「あ、あの……もしかしたら、古代の人々は、魔法を、単なる『力』としてではなく……もっと、こう……世界との『調和』や、術者の『意志』といったものと、深く結びつけて考えていたのかもしれません……」
「調和……?意志……?」
「はい。古代の文献には、しばしば『万物は魔力で繋がり、互いに響き合う』といった記述が見られます。そして、優れた術者は、その『響き合い』を感じ取り、自らの意志を乗せることで、魔力の流れを最適化し、より大きな力を引き出していた、と……」
「(魔力の共鳴……意志の力……か。確かに、この世界の魔法は、術者のイメージや集中力が、結果を大きく左右する傾向がある。論理魔導は、その『曖昧さ』を排除し、論理と計算で結果を確定させることを目指してるけど……古代魔法は、むしろその『曖昧さ』を積極的に利用していた……?)」
ニーナは、セレスティの言葉に、新たな視点を与えられたような気がした。
その数日後、二人は、比較的安全と思われる古代の「灯火の魔法」の再現実験に取り組んでいた。それは、周囲の魔力を集め、穏やかで持続的な光を生み出すという、単純な魔法のはずだった。しかし、文献通りに魔導回路を組み、魔力を流し込んでも、なぜか光は弱々しく、すぐに消えてしまう。
「おかしいな……理論上は、もっと強い光が出るはずなのに。どこか、見落としがあるのか……?」
ニーナは、何度も魔導回路の設計を見直すが、論理的な誤りは見つけられない。
その時、ふと、セレスティが言った言葉が脳裏をよぎった。「術者の意志……世界の調和……」
ニーナは、試しに、目の前の魔石と、そして周囲の空間に満ちる魔力に対して、意識を集中させた。そして、「この魔法を成功させたい」「この場所に、温かい光を灯したい」と、心の底から強く願った。それは、論理的な思考とは異なる、もっと純粋で、直感的な想いだった。
すると、次の瞬間、信じられない現象が起きた。
ニーナが魔力を流し込んでいた魔石から放たれる光が、通常の論理魔導で発生する青白い光に加え、ふわりと暖かな金色の光を帯び始めたのだ。そして、その光は、まるでニーナの意志に呼応するかのように、力強く輝きを増し、研究室全体を優しい光で満たした。
「(な……!?今の……何だ……!?論理じゃない……コードでもない……もっと、こう……根源的な……俺自身の『想い』が、魔力と直接共鳴した……みたいな……?)」
ニーナは、その現象に衝撃を受け、言葉を失った。エレメンタル・ガードナーを介さず、自分の意志そのものが、魔力の流れに直接作用し、魔法の効果を増幅させたかのような感覚。それは、これまで彼女が認識してきた論理魔導の範疇を、明らかに超えていた。
セレスティも、その神々しいほどの光景に目を見張り、息を呑んでいた。
「ニーナさん……今の光……まるで、古代の魔法が、本当に息を吹き返したみたいでした……!」
この出来事は、ニーナとセレスティに、古代魔法の奥深さと、そして魔力と意識の未知なる可能性を垣間見せる、重要な体験となるのだった。




