コミット 87:『セレスティの「心の壁」へのアプローチ!ギャル式カウンセリング(?)の成果は!?』
古代魔法の共同研究は順調に進んでいたが、ニーナはセレスティが抱えるもう一つの大きな「不具合」……すなわち「コミュ障」について、依然として気にかけていた。いくら素晴らしい知識と才能を持っていても、それを他者に効果的に伝え、協力関係を築けなければ、その力は十分に発揮されない。
「(セレスティさんの知識は、マジで国宝級なんだからな。でも、このままじゃ、宝の持ち腐れどころか、ストレスで潰れちまうかもしれない。なんとかして、もう少し、コミュニケーションに対する苦手意識を克服させてあげたいんだけど……)」
ニーナは、研究の合間を見つけては、セレスティに対して、自分なりのやり方でコミュニケーションの練習を試みていた。それは、およそカウンセリングとは呼べない、ギャルならではの強引で、しかしどこか憎めないアプローチだった。
「いーい?セレスティさん!魔法の研究も大事だけど、たまには息抜きも必要だって!気分転換に、街にお買い物でも行かない?可愛い服とか見てると、テンション上がるっしょ!」
「ひゃっ!?か、買い物……ですか……?わ、私なんかが、そんな華やかな場所に……それに、人混みは、その……」
セレスティは、いつものように顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「大丈夫だって!私が一緒なんだから、何も心配いらないって!ほら、行くよ!」
ニーナは、半ば強引にセレスティの手を引き、研究室から連れ出した。
最初は戸惑い、周囲の視線に怯えていたセレスティだったが、ニーナの底抜けに明るいペースに巻き込まれ、いつの間にか、少しだけ街の雰囲気を楽しんでいる自分に気づいた。ニーナは、セレスティが興味を示しそうなアンティークの店や、珍しい魔道具を扱う店に立ち寄り、積極的に店員と会話する姿を見せる。
「ね、セレスティさん、今の店員さんの説明、分かりやすかったでしょ?あんな感じで、自分の知ってることを、相手に興味を持ってもらえるように話せると、もっと研究も楽しくなると思うんだよねー」
「は、はい……ニーナさんは、誰とでも、すぐに打ち解けて……すごいです……」
「まあ、アタ……私は、見た目通り、ノリと勢いだけが取り柄だからね!でも、大事なのは、失敗を恐れないこと!最初は上手く話せなくても、何度もチャレンジしてれば、だんだん慣れてくるもんだって!」
ニーナは、自分の経験(主に前世のプレゼン失敗談など)を交えながら、コミュニケーションの楽しさや、失敗から学ぶことの重要性を、セレスティに語って聞かせた。その言葉には、およそギャルとは思えない、妙な説得力があった。
またある時は、ニーナはセレスティをアカデミアのカフェテリアに誘い、他の学生や研究者たちが談笑している様子を一緒に眺めた。
「見て見て、セレスティさん。みんな、別に難しい話をしてるわけじゃないでしょ?ちょっとした冗談とか、今日の天気の話とか、そういうのでもいいんだよ。大事なのは、相手に興味を持って、話を聞く姿勢を見せること!」
「(大丈夫だって!セレスティの知識、マジ神だから自信持っていこーぜ!)」
ニーナは、心の中でセレスティにエールを送る。
セレスティは、ニーナの言葉を一つ一つ真剣に受け止め、少しずつではあるが、人と接することへの恐怖心を和らげていった。ニーナの裏表のない、常にポジティブな態度は、セレスティにとって、まるで安心できるセーフティーネットのように感じられたのかもしれない。
この奇妙な「ギャル式カウンセリング」が、どれほどの効果を上げているのかは未知数だったが、少なくとも、セレスティがニーナに対して、以前よりもずっと心を開き、自然な笑顔を見せるようになってきたのは、確かな変化だった。




