コミット 86:『古代魔法の3Dモデリング!?ニーナとセレスティの共同デバッグ作業!』
ニーナが試作した「古代魔法解析装置」は、セレスティの研究を大いに助けたが、それでも複雑な古代魔法の構造を完全に理解するには、まだ壁があった。文献に記された魔導回路図や、解析装置が出力する図形データは、あくまで二次元的な情報であり、実際の魔力の流れや干渉の様子を直感的に把握するのは難しかったのだ。
「(うーん、この部分の魔力干渉、やっぱり平面図だけじゃイメージしづらいな……もっとこう、立体的に、実際に魔力がどう流れて、どう作用してるのかが見えれば……)」
ニーナが腕を組んで唸っていると、セレスティが何かに気づいたように顔を上げた。
「あ、あの……ニーナさん。以前、アカデミアの講義で見た『光の魔法石』を使った投影技術なら、もしかしたら……その、魔導回路を立体的に表示できるかもしれません……!」
「光の魔法石を使った投影技術?」
セレスティの説明によると、それは特殊な光の魔法石と、精密な魔力制御を組み合わせることで、簡単な図形や文字を空間に投影する技術らしい。アカデミアでは主に教育目的で使われているが、応用すれば、もっと複雑な情報を可視化できる可能性があるという。
「(なるほど、ホログラムみたいなもんか!それなら、私の論理魔導と組み合わせれば、あるいは……!)」
ニーナは、早速セレスティに協力を仰ぎ、アカデミアの倉庫から光の魔法石をいくつか借り受けると、再び解析装置の改良に取り掛かった。今度の目標は、解析した魔導回路の情報を、三次元の立体モデルとして空間に投影する機能の実装だ。
数日間の試行錯誤の末、ニーナはついに、古代魔法の魔導回路を光の3Dモデルとして空間に投影することに成功した。研究室の中央に、青白い光で構成された複雑な魔導回路の立体モデルが浮かび上がる。それは、まるで美しい光のオブジェのようであり、同時に、無数の魔力の流れが複雑に絡み合った、生命体のような印象も与えた。
「おぉ……!すごい……!本当に、古代の魔導回路が、目の前に……!」
セレスティは、その光景に目を輝かせ、感嘆の声を漏らした。
「よし、これで、もっと詳細な分析ができるはずだ。セレスティさん、この立体モデルを見ながら、気になる部分とか、おかしいと思う部分があったら、どんどん指摘してください!」
二人の共同デバッグ作業は、新たな次元へと進化した。セレスティが、空間に投影された光の立体モデルを指さしながら、古代文献の記述と照らし合わせ、その構造や魔力の流れについて解説する。ニーナは、その解説を元に、論理魔導でモデルを回転させたり、特定の箇所を拡大表示したりしながら、SE的な視点から「バグ」や「最適化ポイント」を探していく。
「このライン、魔力の流れが明らかにここで滞留してる……完全に冗長設計だな。ここをバイパスさせれば、もっと効率的にエネルギーを伝達できるはずだ。カットだカット!」
ニーナは、空中に投影された光の線の一本を、指でなぞるようにして消去する。
「あ、でも、そこの部分は、もしかしたら、特定の条件下で意図的に魔力を『溜める』ための構造なのかも……しれません。古代の魔法には、現代では考えられないような、多重的な意味を持つ回路が多いので……」
セレスティが、慎重に意見を述べる。
「(なるほど……フェイルセーフ機構か、あるいは隠し機能のトリガーか……だとしたら、単純に削除するのはマズいな。もう少し、周辺の回路との関連性を調べてみる必要があるか)」
光の立体モデルを前に、二人の議論は白熱する。不要と思われる光の線を削除し、より効率的な流れを生み出すために新たな光の線を加え、時には、全く異なる構造へとモデルを組み替えてみる。それは、まさに3Dモデリングツールを使った共同デバッグ作業そのものだった。
この新しい解析方法は、二人の古代魔法への理解を飛躍的に深め、そして新たな発見を次々ともたらした。複雑に絡み合っていた古代魔法の謎が、美しい光の線として解きほぐされていく様は、二人にとって何物にも代えがたい知的興奮を与えてくれるのだった。




