コミット 84:『論理魔導≪ロジカルマジック≫応用編!セレスティ専用「古代魔法解析装置」の試作!』
セレスティとの共同研究を進める中で、ニーナは一つの課題に直面していた。それは、セレスティが持つ膨大な古代魔法の知識を、効率的に「見える化」し、分析するための手段の不足だった。古代の文献は難解で、その情報を手作業で整理し、現代の魔法理論と照らし合わせる作業は、膨大な時間と労力を要した。
「(このままじゃ、埒が明かないな……セレスティさんの頭の中にある知識は、まさに宝の山なのに、それを掘り起こすための『ツール』が貧弱すぎる。もっと効率的に、そして正確に情報を引き出せるような、何かが必要だ……)」
そこで、ニーナは、自分の論理魔導の知識を応用し、セレスティ専用の「古代魔法解析装置」とも呼べる魔道具を試作してみることを思いついた。それは、かつて前世で使っていた、ソースコードの静的解析ツールや、デバッグ支援ツールのようなものを、この世界の技術で再現しようという試みだった。
「セレスティさん、ちょっと試したいことがあるんだけど、手伝ってもらってもいい?」
ニーナは、アカデミアの工房からいくつかの魔石や金属部品を調達し、セレスティの研究室で、何やら怪しげな装置の組み立てを始めた。それは、一見するとガラクタの寄せ集めのようにも見えたが、ニーナの頭の中には、明確な設計図が存在していた。
「これは、古代魔法の文献とか、魔道具の残骸とかをここにセットすると、その魔力パターンとか、構造的な特徴をスキャンして、簡易的な図形データとして表示してくれる……はずの装置?まあ、まだプロトタイプだから、どこまで上手くいくかは分かんないけど」
数時間後、ニーナが試行錯誤の末に完成させたのは、小さな台座の上に、いくつかの種類の魔石が複雑に配置され、それらが細い魔力伝導線で結ばれた、奇妙な形状の装置だった。
「よし、とりあえず試運転だ!セレスティさん、何か解析してみたい古代のアイテムとか、ある?」
セレスティは、半信半疑ながらも、自分が持っていた古代の小さな護符のようなものを、装置の台座にそっと置いた。
ニーナが装置に論理魔導で魔力を流し込むと、台座の上の魔石群が微かな光を放ち始め、ジーという低い作動音と共に、魔石水晶盤に、淡い光の粒子が投影された。そして、その光の粒子は、徐々に護符の内部構造や、そこに込められた微弱な魔力の流れを、イメージとして描き出し始めたのだ。
「おぉ……!これは……!」
セレスティは、目の前で起きている現象に、息を呑んだ。
装置は、護符に秘められた魔力の流れを、まるで回路図のように、線や点で構成された図形として魔石水晶盤上に投影している。それは、材質や年代といった詳細な情報までは表示しないものの、魔法的な構造を視覚的に理解する上で、非常に有効なものだった。
「すごい……!ニーナさん、これ、一体どういう仕組みなんですか!?」
セレスティは、興奮した様子でニーナに詰め寄る。
「まあ、簡単に言えば、対象物の魔力の流れを読み取って、その流れ方を図形として表示してるだけだよ。まだ、大まかな流れしか追えないし、複雑なものは解析しきれないけどね」
ニーナは謙遜したが、その装置が持つ可能性は、計り知れないものがあった。これがあれば、セレスティは、これまで手作業で行っていた古代魔法の煩雑な解析作業から解放され、より本質的な研究に集中することができるようになる。それは、まさに彼女の研究を飛躍的に加速させる「デバッグツール」の誕生だった。
「(よし、これでセレスティさんの研究が捗るはずだ……!そして、このツール自体も、もっと改良していけば、いずれは未知の不具合の特定とかにも使えるようになるかもしれないぞ!)」
ニーナは、自分の作った装置が、この世界の魔法研究に新たな道を開く可能性を秘めていることを感じ、SEとしての達成感に満たされるのだった。




