コミット 83:『猫耳学者の生態観察!日向ぼっこは必須科目らしい!』
ニーナとセレスティの共同研究は、日進月歩とはいかないまでも、少しずつ成果を上げ始めていた。古代魔法の難解な理論と格闘する日々は、二人にとって知的興奮に満ちたものだったが、同時に、精神的な疲労も蓄積していく。
そんな時、ニーナは、セレスティの意外な一面を発見することになる。
研究に行き詰まり、二人とも集中力が途切れかけたある日の午後。ニーナがふとセレスティの方を見ると、彼女はいつの間にか研究室の窓際に移動し、差し込む柔らかな陽光を浴びながら、気持ちよさそうにウトウトと微睡んでいたのだ。その姿は、まるで日向ぼっこをする猫そのものだった。
「(おいおい、マジかよ……このクソ忙しい時に、日向ぼっこで充電中か?いや、まあ、猫耳族だから、生態的にそういうもんなのかもしれないけど……!)」
ニーナは、思わずツッコミを入れたくなったが、セレスティのあまりにも無防備で、そしてどこか幸せそうな寝顔を見ていると、なんだか毒気を抜かれてしまう。ピクピクと動く猫耳と、時折小さく揺れる尻尾は、彼女が心からリラックスしていることを示していた。
「(まあ、確かに、SEだって適度な休憩は必要だしな。ぶっ通しでコード書いても、効率が落ちるだけだ。この子なりに、集中力を回復させるための、最適なルーティンなのかもしれない)」
ニーナは、そっと自分の上着をセレスティの肩にかけ、自身も少しの間、研究から離れて休憩を取ることにした。
しばらくして、目を覚ましたセレスティは、自分の肩にかかった上着に気づき、顔を真っ赤にして恐縮しきっていた。
「ひゃっ!?ニ、ニーナさんの上着……!い、いつの間に……!も、申し訳ありません!私としたことが、はしたない真似を……!」
「いーっていーって。それより、少しは頭スッキリした?日向ぼっこ、気持ちよさそうだったじゃない」
「あ、えっと……その……猫族の習性で、つい……お恥ずかしい限りです……」
セレスティは、俯いて消え入りそうな声で言った。
「習性ねぇ。じゃあ、日向ぼっこは、セレスティさんにとっては必須科目ってわけだ。よし、これからは、研究の合間に『日向ぼっこタイム』を導入するか!」
「ふぇっ!?ひ、日向ぼっこタイム……ですか……!?」
ニーナの提案に、セレスティはさらに顔を赤くしたが、その瞳の奥には、どこか嬉しそうな色が浮かんでいるようにも見えた。
この一件以来、ニーナは、セレスティの「猫耳学者としての生態」を、温かく見守るようになった。時には、研究室の窓辺にクッションを置いてあげたり、日向ぼっこ中にそっと温かい飲み物を差し入れたりすることもあった。
それは、およそSEと魔法学者の共同研究とは思えない、どこか微笑ましい光景だったが、こういった何気ない日常の積み重ねが、二人の間の信頼関係をより一層深め、そしてセレスティの心を癒していくことに繋がるのかもしれない。




