コミット 81:『セレスティとの共同研究!古代魔法の「仕様書」は解読不能!?』
首都の魔力供給システムの一件を経て、セレスティはニーナに対して絶大な信頼を寄せるようになり、二人の共同研究は新たな段階へと進み始めた。セレスティの持つ膨大な古代魔法の知識と、ニーナの論理魔導を融合させ、現代の魔法理論では実現不可能な、全く新しい魔法体系を構築しようという壮大な試みだ。
「(セレスティさんの知識は、まさに宝の山だな。でも、その『仕様書』とも言える古代文献が、あまりにも難解すぎる……!)」
ニーナは、セレスティの研究室で、古代の羊皮紙に描かれた、見たこともない古代文字や、石板に刻まれた魔導回路の図面と格闘していた。それらは、現代の魔法理論とは全く異なる概念や法則に基づいて記述されており、ニーナのSE的な思考をもってしても、その解読は困難を極めた。
「この紋様の配置、一見ランダムに見えるけど、特定の条件下で魔力の流れを増幅させる『共振回路』を形成してるのか……?でも、そのトリガーとなる条件が、現代の魔力触媒じゃ再現できない……!」
「そ、そこは、古代の文献によると、『星詠みの石』と呼ばれる特殊な鉱石が……でも、その鉱石はもう何百年も前に採掘され尽くしてしまって……」
セレスティが、か細い声で補足する。
「(設計思想が違いすぎて、互換性ゼロじゃないか!まるで、最新OSで旧世代のプログラムを動かそうとしてるみたいだ……!)」
ニーナは頭を抱える。古代魔法は、現代魔法よりも遥かに強力で、多様な効果を持っていたようだが、その多くは、失われた素材や、現代では再現不可能な魔力環境を前提として構築されているのだ。
それでも、二人は諦めなかった。セレスティが古代文献から魔法の『コンセプト』や『ロジック』を読み解き、ニーナがそれを現代の魔法理論と論理魔導のフレームワークに落とし込み、可能な範囲で『再設計』していく。その作業は、まるで未知の言語で書かれた複雑なプログラムをリバースエンジニアリングし、別の言語に移植していくような、根気のいる作業だった。
古代文献に描かれた魔導回路が、ニーナの思考の中では、複雑怪奇な光のパターンとして浮かび上がる。彼女の論理魔導の青い光のコードが、それを解析しようと絡みつくが、時には弾かれたり、予期せぬエラーを引き起こしたりする。それは、なかなかフレームワークに落とし込めない難解な古代の技術体系と、現代の論理との格闘を象徴しているかのようだった。
「うーん、この『念動力』に関する記述、理論上は完璧に見えるけど、実際に魔力を流すと、座標指定の段階で必ずエラーが出るな……どこかに致命的な記述ミスか、あるいは現代では考慮されていない『隠しパラメータ』があるはずだ……」
「あ、あの……もしかしたら、その部分は、月の満ち欠けとか、地脈の魔力流の変動とかが、影響しているのかも……しれません。古代の魔法は、自然現象との調和を非常に重視していた、と……」
セレスティの的確な指摘が、ニーナの思考に新たな光を当てる。
「(なるほど……自然現象との同期か!完全に盲点だった……!SE的には、外部APIとの連携エラーみたいなもんか!)」
二人の知識と知恵が合わさることで、少しずつ、古代魔法の謎が解き明かされていく。それは、まるで巨大なパズルのピースを一つ一つ嵌めていくような、地道だがエキサイティングな作業だった。
この共同研究は、ニーナにとっても、論理魔導の新たな可能性を探求する絶好の機会であり、そしてセレスティにとっても、自分の知識が具体的な形になっていく喜びを実感できる、かけがえのない時間となっていた。




