コミット 80:『「言葉にできなかった知識は無意味じゃない!」セレスティ、トラウマの監獄に光!』
王都アウレア・シティの魔力供給システム異常という未曾有の危機は、セレスティの古代魔法の知識と、ニーナの論理魔導という二つの異なる才能の融合によって、奇跡的に解決された。この一件は、アカデミアの魔術師たちはもちろん、王都全体に大きな衝撃と賞賛をもって受け止められた。
そして何よりも、この出来事は、セレスティ自身にとって、人生を左右するほどの大きな転機となった。
「(私の知識が……本当に、みんなの役に立った……言葉に、できなかったけど……ニーナさんが、私の想いを、形にしてくれた……)」
セレスティは、これまでの人生で感じたことのないほどの、大きな達成感と、そしてほんの少しの自信に包まれていた。自分の研究室に閉じこもり、誰にも理解されない知識の海で溺れかけていた彼女にとって、それはまるで暗闇の中に差し込んだ一筋の光明のようだった。
彼女には、過去に自分の知識を役立てられなかった苦い経験があった。それが心の重荷となり、自分の研究成果を他者に伝えることを躊躇させていたのだ。自分の知識は無力で、誰の役にも立たないのではないかという不安が、常に彼女を苛んでいた。
しかし、ニーナとの出会いが、その頑なな心の壁を少しずつ溶かし始めた。ニーナは、セレスティの知識の価値を誰よりも理解し、それを具体的な形にするための「実装」を手助けしてくれた。そして、今回の魔力供給システムの復旧という大きな成功体験は、セレスティに「自分の知識も役に立つんだ」「言葉にできなくても、想いは伝わるんだ」という、確かな実感を与えてくれた。
「(ニーナさんがいなければ、私はきっと、一生あの暗闇から出られなかった……でも、今は……少しだけ、前に進めるかもしれない……!)」
セレスティの心象風景の中で、長らく閉ざされていた重い扉に、確かに光が差し込み、その扉がゆっくりと開き始めているのが見えた。まだ、完全に解放されたわけではない。しかし、その一歩は、彼女にとって何よりも大きな意味を持っていた。
ニーナは、そんなセレスティの変化を、温かい目で見守っていた。
「どういたしまして、って感じ?セレスティさんの知識は、マジで半端ないんだから、もっと自信持っていいんだって!これからは、二人で、もっともっとヤバい魔法、開発しちゃおう!」
ニーナの底抜けに明るい言葉に、セレスティは、はにかみながらも、力強く頷いた。
この日を境に、セレスティは、少しずつではあるが、他者とのコミュニケーションに対する恐怖心を克服し、自分の知識を世界に「解放」していく勇気を持ち始めるのだった。それは、彼女自身の「心の不具合」が、大きくデバッグされた証と言えるだろう。




