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コミット 8:『畑の魔力循環をデバッグしてみた!これが私の異世界初仕事(ただし誰にも言ってない)!』

次の日、私はこっそりと、あの作物が元気のない区画へ向かった。周りに誰もいないのを確認して、そっと畑に入る。


問題の場所は、他のところに比べて明らかに土の色が悪く、作物もひょろひょろと力なくしおれている。私はしゃがんで、おそるおそるその土に手をかざしてみた。


意識を集中する。この身体が持つ、魔力を感じる能力を最大限に引き出すイメージだ。


「(……やっぱり、ビンゴ!)」


すぐに分かった。この区画の土には、明らかに魔力の流れがおかしい。他の元気な作物が育っている場所では、大地から空へ向かう、スムーズで力強い生命力のような魔力の流れ(それは淡い緑色の光に見える)が感じられるのに、この区画だけは、その光の線が途切れ途切れだったり、黒っぽく濁っていたのだ。


「(ああ、ここ、魔力の流れが完全に滞っている。これでは、植物に必要なエネルギーが届くはずがない。完全にエネルギー不足だ)」


原因は特定できた。問題は、どうやってこれを「改善」するかだ。前世のシステムなら、コードを書き換えたり、設定ファイルをいじったりすれば済む話だが、相手は自然の、しかも異世界の魔力の流れである。


「(……でも、基本は一緒のはず。滞っている流れを、正常な状態に戻す。詰まっている場所を何とかして、エネルギーがスムーズに流れるようにする)」


私は、前世でネットワークの通信トラブルを直していた時のことを思い出した。あの時も、データの流れを見て、どこで止まっているのかを探し、データの通り道を良くしたのだ。


「(やってみるか……。私の『思考による指示』で、この魔力の流れを誘導できないだろうか?)」


成功する保証などない。むしろ、下手にいじって、もっと悪くなる可能性だってある。しかし、目の前の「不具合」を放っておくのは、私のSEとしてのプライドが許さなかった。


私はもう一度土に手をかざし、目を閉じて深く集中する。


「(イメージ!この濁って途切れている暗い光の線を……スムーズで、力強く、生命力にあふれた緑色の光の流れに『修正』するんだ。詰まっている場所にはバイパス回路を作り、濁っている場所は別の流れを合流させて押し流す。そして、すべての流れが、淀みなく大地から空へと循環するように……!)」


私の頭の中に、複雑なエネルギーのフロー図が広がっていく。いや、もう図ではなく、生きている魔力の流れそのものだった。どこで魔力を分けさせ、どこで合流させるか。どこを強くして、どこを弱くするか。そのすべてを、私の「意思」という名のプログラムで制御していく。


手のひらから、ほんの少しの、しかし精密な私の魔力が流れ出して、大地に染み込んでいく。それは、まるできっかけのように、滞っていた魔力の流れに作用し始めた。


最初は、ほんのわずかな変化だった。しかし、だんだん、黒っぽく濁っていた光の色が薄れ、途切れ途切れだった線が繋がり始める。私の額には汗が滲み、集中力もそろそろ限界だった。だが、ここでやめるわけにはいかない。


「(いける……!あと少し……!)」


そして、ついに。


私の目の前で、さっきまで淀んでいた区画の土から、弱々しいながらも、確かに緑色の光の線が立ち上り始めた。それはまだ、他の元気な区画の光に比べたら細くて頼りないが、それでも確かに「生きている」光だった。


「はぁ……はぁ……」


私は、どっと疲れ果てて、その場に座り込んだ。魔力もだが、それ以上に精神的にひどく疲れたようだった。しかし、顔には達成感のようなものが浮かんでいた。


ふと見ると、しおれていた作物の葉っぱが、ほんの少しだけ、本当にわずかだが、シャキッとしたように見えた。


「(……やった!やったんだ!)」


これが、私の異世界での初めての本格的な「問題解決」だ。そして、それはちゃんと結果を出したのだ。


もちろん、これで完全に問題が解決したわけではないだろう。根本的な原因――この世界のシステム全体に潜んでいるかもしれない「大きなバグ」――を取り除かない限り、また同じようなことが起こるかもしれない。


しかし、今は素直にこの小さな成功を喜ぼう。そして、この経験をバネにして、もっと大きな問題に立ち向かうための力をつけよう。


私は、自分の両手を見つめた。この手で、私はこの世界の「不具合」を直せるかもしれない。そう思うと、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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