コミット 79:『王都の魔力供給システム、大混乱!セレスティの知識、ついに世界を救う!?』
ニーナとセレスティの共同研究と、微笑ましい(?)日常が続くある日のこと。王都アウレア・シティの広範囲で、突如として魔力供給システムに大規模な異常が発生した。街の至る所にある魔石灯が明滅を繰り返し、水道から水が出なくなり、一部では魔道具の機能不全も報告されるなど、市民生活に大きな混乱が生じ始めていた。
王都の魔力供給は、アカデミアに併設された「中央魔力供給施設」で、選りすぐりのエリート魔術師たちが、巨大な魔石群を精密にコントロールすることで維持されている。しかし、今回の異常は、彼らの手に負えないほど複雑で、原因も特定できないまま時間だけが過ぎていった。
「(これは……完全にインフラ系のシステム障害だな。しかも、原因不明ってことは、かなり厄介な不具合が潜んでる可能性があるぞ)」
ニーナとセレスティも、アカデミア内でその混乱に巻き込まれていた。研究室の魔石灯もチカチカと点滅し、貴重な実験装置も停止してしまっている。
「ど、どうしましょう、ニーナさん……!このままじゃ、研究も進められませんし、街の人たちも……!」
セレスティは、不安そうにニーナを見上げた。
「落ち着いて、セレスティさん。まずは、状況を把握しないと。アカデミアの魔術師たちは、何か対策を講じてるはずだ」
しかし、中央魔力供給施設に集まった魔術師たちは、頭を抱えていた。魔力の流れを示す巨大な魔石水晶盤には、無数の異常な光の波形が乱れ飛び、どこから手をつけていいのか分からない状態だ。
「ダメだ、全く制御できない!」
「魔力の逆流がひどすぎる!このままでは、魔石そのものが暴走しかねんぞ!」
パニック寸前の魔術師たち。その時、セレスティが、魔石水晶盤に映し出された異常な魔力波形をじっと見つめ、何かに気づいたように声を上げた。
「あ、あの……!その、魔力の流れ……もしかしたら、古代の『調律の魔導回路』の構造と、何か、関係があるの、かもしれません……!」
「古代の魔導回路だと?小娘、何を馬鹿なことを!」
一人の年配の魔術師が、セレスティの言葉を一蹴しようとした。
しかし、ニーナはセレスティのその言葉を聞き逃さなかった。
「セレスティさん、詳しく聞かせて!その『調律の魔導回路』って、一体どういうものなの!?」
セレスティは、ニーナに促され、おずおずと説明を始めた。「え、えっと……古代の文献によると、大規模な魔力の流れを安定させるために、特定の幾何学パターンを用いた魔導回路が存在した、と……その回路は、魔力の『共振』を利用して、乱れた流れを強制的に調和させる効果があった、と……でも、その理論は現代では失われていて……」
「魔力の共振を利用した調和……!なるほど、それなら、今のこのカオスな魔力状態を、一気に正常化できるかもしれない!」
ニーナは、セレスティの知識に光明を見出した。そして、魔石水晶盤の異常な波形と、セレスティが記憶している古代の魔導回路のパターンを照らし合わせ、自分の論理魔導で、その「調律」を再現しようと試みる。
「(セレスティさんの知識を元に、現代の魔力供給システムに応用可能な『調律アルゴリズム』を構築する!そして、それをエレメンタル・ガードナーを通して、システムのコアに直接送り込む!)」
「セレスティさん、私に指示をください!あんたの知識が、この街を救う鍵になる!」
セレスティは、ニーナの真剣な眼差しに、一瞬戸惑いながらも、強く頷いた。そして、震える声で、しかし的確に、古代の魔導回路の構造と、魔力制御のポイントをニーナに伝え始める。
「まず、魔力の入力点を三つ……そして、それぞれの位相を……4分の1波長ずつずらして……出力側の共振周波数は……」
セレスティの指示に基づき、ニーナはエレメンタル・ガードナーから青い光の線を放ち、中央魔力供給施設の巨大な魔石群へと接続していく。その光の線は、セレスティの脳内にあった複雑な知識が、見事に整理され、具現化されたかのように、美しい幾何学模様を描きながら、乱れた魔力の流れを修復し始めた。
そして、数分後。
乱れ飛んでいた魔力の波形が、まるで美しい和音を奏でるかのように、穏やかで安定した流れへと変わっていった。街の魔石灯が一斉に輝きを取り戻し、停止していた水道や魔道具も、再び正常に動き始める。
王都の魔力供給システムは、セレスティの古代の知識と、ニーナの論理魔導によって、見事に正常化されたのだ。
「で、できた……!本当に……私たちの力で……!」
セレスティは、信じられないといった表情で、歓喜の涙を浮かべていた。
周囲の魔術師たちも、唖然とした表情で、二人の少女の偉業を見つめていた。
この瞬間、セレスティの「知識」は、初めて世界に「解放」され、多くの人々を救ったのだ。




